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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。


手洗いの科学 〜通過細菌と常在細菌〜

No.221


 私たちの研究室(北里大学食品機能安全学)のホームページで、累計アクセス数の一番多い記事として「手形培地で細菌検査」があります。6年前に掲載したものですが、いまだにご覧になる方が多く、メールや電話での問い合わせもよくあります。


 「手形培地」というのは、上の写真にあげた製品です。「パームチェック」という製品名で、株式会社日研生物医学研究所から入手できます。手軽に使用でき、興味深い検査結果が得られるので、私も公開講座(下写真)や出前授業などで利用しています。


 この手形培地を用いると、手指の細菌汚染の状況を簡単に知ることができます。上の写真のように、まず、手形培地(手の形をした寒天培地)に手の平を押し当てます。この手形培地を一晩培養すると、コロニー(細菌の塊)が出現します。下の写真は北里大学公開講座で行ったときのもので、(1)洗浄する前、(2)水道水で洗浄後、(3)石鹸で洗浄後という3段階で、手指の細菌を調べた結果です。


 上の写真では、洗浄前に多く存在していた細菌(1)が、水洗いでだいぶ減り(2)、石鹸洗浄でほとんどいなくなる(3)という説明ができます。このような結果だと説明しやすいのですが、実はなかなかそうはいきません。毎年の学生実習でも、この種の実験を行っていますが、手洗いをしても菌数が減らなかったり、逆に菌数が増えてしまったりする場合があります。下の写真のような結果は不思議な感じがしますが、珍しいことではありません。


 手形培地を使用してこのような結果を得る方は多いようで、理由を教えて欲しいという問い合わせを時々受けます。これまでやや曖昧な説明をしてきた反省もあって、先日、「パームチェック」の製造元である日研生物医学研究所にお尋ねしました。いただいた回答によると、(1)手洗いにより通過細菌が除去されるが、手指の常在細菌が浮き出して来ることと、(2)手洗いが不十分で、単に手指に塗り広げるだけになっていることの2点が重要だろうとの見解でした。手洗い後に細菌汚染されたタオルなどで手を拭いてしまい、手指が再汚染される例もあるそうです。


 「通過細菌」と「常在細菌」について少し説明します(下図参照)。人の皮膚(手指など)には常在細菌が存在し、病原菌など有害微生物の増殖を防いでいます。一方、外部からの汚染(糞便等に由来)により、通過細菌が皮膚の表面に付着します。通過細菌の中には、有害微生物も存在します。食中毒は、この通過細菌が手から食品や器具を汚染することにより発生すると考えられます。したがって、通常の手洗いは通過細菌を落とすことにより、大きな目的を果たすことができます。


 手形培地を使った検査で、手洗いをしても菌数が減らないのは、皮脂膜から角質層にかけて比較的強く付着している常在細菌を浮き出させることが一因でしょう。私が行った実験では、ブラシを用いて徹底的に洗浄したり、アルコールなどで消毒したりすれば、手指から細菌はほとんど検出されなくなりました。ただ、日常生活では常在細菌まで完全に除去する必要はないので、過剰な手洗いは必要ありません。もちろん、手術時など高い清浄度が要求される場合には、常在細菌も除去する手洗いが行われます。


 ところで、手形培地を使った検査だけでは、残念ながら検出される細菌の種類まではわかりません。検出される菌数が多いと言っても、安全な常在細菌が主であることもありますので、ただちに心配する必要はありません。なお、細菌の種類によっては、下の写真のように、非常に特徴的なコロニーを形成するものがあります。


 白く大きなコロニーは、納豆菌(Bacillus natto)のものと考えられます。朝食に納豆を食べた方では、たいていこの菌のコロニーがたくさん検出されます。似たような細菌が稲わらにも多いことから、農作業をしたり馬に餌を与えたりしたりする方(馬術部の学生諸君など)からもよく検出されます。


 日研生物医学研究所の担当者の方から、今回のテーマに関する情報源を教えていただきました。以下のサイトをあげておきますので、ご参考にしてください。



この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
167:死んでも働く乳酸菌(2014/06/25)
111:インフルエンザ予防と食品(2012/02/28)
94:ビフィズス菌はデリケート(2011/06/11)

その他のトピックス | 14:07 | 2016.09.26 Monday |