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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。


培養肉の実用化は近い?

No.296


 「培養肉」がマスコミに大きく取り上げられたのは、2013年の「世界初の培養肉の試食会」が最初ではないでしょうか。オランダ・マーストリヒト大学のマーク・ポスト教授(下写真, 2019/11に東京で撮影)が作ったハンバーガーのパティは、1枚3,500万円という代物でした。


 有力な代替肉として、植物肉と細胞培養肉がありますが、当時は植物肉の方がはるかに現実的なものでした。2009年に米国でビヨンド・ミート社が創業し、エンドウ豆を主原料としたプラント・ベースド・ミート(PBM)をハンバーガー用パティなどに供給を開始していました。


 その後、ビヨンド・ミート社は順調に成長し、今年(2019/5)、米ナスダック市場に上場し、一時は1兆円を超える時価総額を付けました。マクドナルド社は、カナダでビヨンド・ミートの植物肉パティを使用したバーガーの発売を発表しました(2019/9/26)。バーガー・キング社は、ビヨンド・ミートのライバル社であるインポッシブル・フーズ社と提携して、植物肉バーガーを全米展開しています。


 植物肉では、日本でも不二製油が「大豆ミート」を半世紀にわたって手掛けてきました。2017年には、日清食品がカップヌードルの「謎肉」に大豆を使用していることを発表し、大豆ミートが注目されるきっかけとなりました。マルコメは、2015年に「ダイズラボ 大豆のお肉」シリーズを発売し、ラインナップを拡大しています。これを利用した加工品も登場しています。実際に食べてみると、かなりの水準に達していると感じられます。


 さて、今回の主題の「培養肉」です。植物肉は、すでに代替肉として実用化されていますが、培養肉はまだその段階には至っていません。しかし、それほど遠くない将来、食卓にあがるときが来るのではと、私は思うようになっています。冒頭で紹介した培養肉の第一人者であるマーク・ポスト教授の講演を、私は今年8月(2019/8)にドイツ・ポツダムの学会で聞く機会がありました。その2か月後(2019/10)にも、中国・南京で彼の話を聞きました(下写真)。


 さらに、翌月(2019/11)には東京で開催されたシンポジウム「未来の食料生産に向けて 〜培養肉開発の最前線」で、ポスト教授の基調講演に接しました。彼の話が説得力を持っていたこともあり、培養肉が身近な存在に感じられるようになりました。


 短期間に3回も会うと、さすがに親しくなります。ポスト教授は強面の巨漢ですが、なかなかの好人物です。直接接して話をして、培養肉の実現が確信に近いものになりました。


 実は日本でも培養肉に対する関心はかなり高まってきており、国立研究開発法人「科学技術振興機構」(JST)も、培養肉を注視しています。2018年度「未来社会創造事業」では、「筋サテライト細胞とオルガノイド培養法の融合による革新的食肉培養法の開発」、「藻類と動物細胞を用いた革新的培養食肉生産システムの創出」、「3次元組織工学による次世代食肉生産技術の創出」、「組織工学技術を応用した世界一安全な食肉の自動生産技術の研究開発」の4課題を採択しました。


 すでにJST事業の成果が出始めており、東京大学生産技術研究所の竹内昌治教授ら(日清食品との共同)は、牛筋肉細胞を培養し、サイコロステーキ状の筋組織の作成に世界で初めて成功しました(2019/6)。挽肉状の培養肉はできても、ステーキ状のものは難しいと考えられていただけに、画期的な成果と言えるでしょう。


 その後も、米国で、ウサギと牛の筋細胞を成長させ天然肉そっくりの食感を作り出すことに成功というニュースがありました(2019/10)。これは、ゼラチン繊維にウサギと牛の筋細胞を植え込み培養したとのことです。また、つい数日前には、中国の南京農業大学の周光宏教授が、筋肉幹細胞を用いて培養肉の作成に成功しました(2019/11)。先月(2019/10)、南京で周先生にお会いしたときに上機嫌だったのは、研究がうまく進んでいたことも関係していたのかもしれません(下写真右)。


 なお、詳細は不明ですが、最近、ロシアの宇宙飛行士が、国際宇宙ステーションで人工肉の培養に成功したという話もありました(2019/10)。また、食肉業界最大手の日本ハムが、細胞培養技術を使った食肉の開発を進めているインテグリカルチャー社と動物細胞の大量培養による食品生産に向けた基盤技術開発を始めるという発表(2019/7)も、気になるニュースです。


 テレビや新聞といったマスコミも、今年(2019年)に入り、かなり頻繁に培養肉を取り上げるようになりました。経済誌や経済紙までが培養肉に注目するようになったことは、実用化が視野に入っているということなのかもしれません。エコノミスト誌(下写真左:2019/11/26号)は、「食肉大争奪」という特集の中で、人工肉を見開き2頁で扱っています。また、日経ヴェリタス紙(写真右:2019/11/10号)の「フードテックの妙味」という5面にわたる特集の大部分が、培養肉など代替肉に関するものです。


 米国では、研究開発が進んでいる培養肉が商品化されることを見越して、食品医薬品局と農務省が規制の枠組みを設けることで合意したとのことです(2018/12)。このような話も、培養肉が食卓に登場する日が近づいていることを感じさせます。米国の調査会社による予測では、2040年には植物肉と培養肉をあわせたシェアは60%になると見ています。従来の牛・豚・鶏といった食肉が40%に減じるということです。次に培養肉を扱うときは、「培養肉が食卓へ!」といったタイトルになるかもしれません。

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263:羊肉の魅力(2018/06/25)
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トピックスをすべて見る | 15:46 | 2019.11.25 Monday |