<< March 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

<< バラ焼きの街・十和田 | main | 生ハムの国・スペイン >>

コラーゲンとメイラード反応

No.36


 今回は、「コラーゲン」と「メイラード反応」ですので、ちょっとだけ難しい話かもしれません。コラーゲンについては、1年ほど前に解説したことがありました(No.9「コラーゲンとコラーゲンペプチド」参照)。また、メイラード反応については最近も取り上げています(No.32「ホットケーキとメイラード反応」参照)。そのとき、下の図を用いてメイラード反応を説明しました。


 この図にあるように、アミノ酸と糖の混合物を加熱すると、メイラード反応が起こり、メラノイジンなどの物質が生成します。メイラード反応生成物は、食品に好ましい色調や香りを与えることが古くから知られています。身近な例では、コーヒーや味噌・醤油といった食品の色や香りにメイラード反応が関わっています。また、最近では、メイラード反応生成物に保健的な働きがあることも明らかにされつつあります。なお、図中にはアミノ酸と書いてありますが、アミノ酸がつながったペプチドやタンパク質でも構いません。もちろん、タンパク質であるコラーゲンやコラーゲンの分解物(ペプチド、下図)も糖と共に加熱すれば、メイラード反応が起こります。


 コラーゲンの物質的な特徴のひとつとして、偏ったアミノ酸組成があげられます。私たちは、グリシンというアミノ酸が多く含まれていること(約33%)に注目しました。グリシンは、メイラード反応を起こしやすいアミノ酸だからです。一方、食品におけるメイラード反応のマイナス面として、アスパラギンというアミノ酸からのアクリルアミド(有害物質)の生成があります。ジャガイモなどアスパラギンの多いタンパク質を含む原料を高温加熱して得られる食品(ポテトチップスなど)では、アクリルアミドの生成が危惧されます。ひところ、ポテトチップスにおけるアクリルアミド生成の話は、新聞やテレビで随分取り上げられました。幸い、コラーゲンはアスパラギンを含んでいませんので、この点からもメイラード反応を起こさせる原料として好適なものと考えました。


 これまでに私たちは、水畜産副産物に含まれるコラーゲンの酵素分解物(コラーゲンペプチド)に糖類(キシロースのような還元糖)を加え、加熱して得られるメイラード反応生成物(上図)の性質を検討してきました。その結果、コラーゲンペプチドから得られるメイラード反応生成物は、抗酸化活性や血圧降下作用が強いことがわかりました。

 また、コラーゲンペプチドは無味無臭に近いのですが、メイラード反応を経ることにより、風味が付与されます(色は下の写真を参照)。これは、温度や時間といった加熱条件によっても変わりますが、嗜好性試験の結果は概ね好ましいものでした。香りや味を言葉で説明するのは難しいのですが、ほのかに甘く香ばしいという感じです。また、ヒトだけではなく、イヌの嗜好性試験においても良好な結果が得られたので、食品やペットフードあるいはサプリメントなどに利用することのできる素材ではないかと考えています。まさに、「美味しくて体に良い」優れた食品素材が得られたと思っています。


 加工食品やペットフードの原料としてコラーゲンペプチドを配合した後に、適切な加熱処理を行えば、その過程でもメイラード反応が起ります。とくにペットフードの場合では、ほとんどの製品がかなり高温の加熱処理を経て製造されていますので、最終製品中にコラーゲン由来のメイラード反応生成物をもたらすのは容易でしょう。

 以前にも書いたように(No.9「コラーゲンとコラーゲンペプチド」参照)、コラーゲンは注目度の高い素材で、食品やサプリメントに広く利用されています。しかし、その効果の科学的証明が十分に行われていない面があります。コラーゲンは、魚介類や食肉の副産物(皮やウロコなど)に多く含まれているので、有効利用が望まれている素材でもあります。私たちの研究も、そのような貢献ができればと考えています。私の所属する北里大学獣医学部のある地域(岩手県北部〜青森県南部、下の地図参照)は、わが国有数の鶏肉生産地ですので、大量の鶏副産物が得られます。特に、鶏の皮や足、手羽先などにはコラーゲンが多いので、付加価値の高い素材にすることができれば、地域産業の振興にも役立てるのではないかと思っています。


 今回は私たちの研究についての話でしたので、ちょっと理解しづらい部分もあったかもしれません。分かりやすい説明を心掛けましたが、なかなか難しいものです。なお、今回紹介した研究成果は、すでに特許出願を行っています(特願2008-273268「コラーゲンを原料とする保健的機能性と嗜好性向上効果を備えた食品・ペットフード素材」)。この内容について詳しいことをお知りになりたい方は、どうぞご連絡ください。
 連絡先は、PROFILEページをご覧ください。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
223:生薬「阿膠」とメイラード反応(2016/10/25)
93:食品と生体におけるメイラード反応(2011/05/25)
51:ペプチドの書籍を監修(2009/08/25)
32:ホットケーキとメイラード反応(2008/11/10)
10:ペプチドは魅力的なペットフード素材(2007/12/10)
9:コラーゲンとコラーゲンペプチド(2007/11/26)
ペプチドのトピックス | 10:50 | 2009.01.13 Tuesday |