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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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花粉症と乳酸菌

No.39


 今年も花粉症の季節になりました。花粉症に悩まされている方にとってはつらい日々かと思います。様々な対策をとっておられる方も多いことでしょう。ここ数年、花粉症の予防や症状軽減に効果のある食品素材として、乳酸菌やビフィズス菌が注目されています。

 2001年に、Lactobacillus rhamnosus GG(通称GG菌)という乳酸菌の摂取がアトピー性皮膚炎に対して予防効果を示すという研究成果が報告されました。それ以降、食物アレルギーや花粉症などのアレルギー性疾患と乳酸菌摂取の関係について多くの研究が行われてきました。

 GG菌については、以前、「No.22 機能性食品先進国フィンランド」でも触れましたが、世界中で発酵乳に利用されている乳酸菌(プロバイオティクス)です。日本では、タカナシ乳業が写真のような製品を発売しています。なお、写真左は通常の製品ですが、右は季節限定の「春!爽快ヨーグルト(PDFファイル:約170KB)」です。パッケージには「春にたたかう乳酸菌」とありますが、なんだか花粉症に効きそうなコピーです。


 乳酸菌がなぜ花粉症に効果があるのかについて、ごく簡単に説明することにします。花粉症の発症には、スギ花粉など(抗原)に対するIgE抗体の存在が重要です。花粉症を予防するためには、このIgE抗体の体内における産生を抑えることがポイントとなります。ある種の乳酸菌(たとえばGG菌)を経口的に摂取すると、IgE抗体の産生が抑制されることが報告されてきました。

 生体内で免疫機能を制御する重要な細胞としてヘルパーT細胞があります。Th1とTh2という2種類のヘルパーT細胞のバランス(Th1/Th2バランス)が崩れてしまい、Th2細胞が過多の状態になると、IgE抗体が過剰に産生され、花粉症や食物アレルギーが発症しやすいと言われています。衛生的な環境の整備により、乳幼児期に細菌やウイルスなどの微生物に感染する機会が少なくなったため、先進国ではTh1/Th2バランスが崩れている人が多くなったという「衛生仮説」(Hygiene hypothesis)により、アレルギー性疾患の増加がよく説明されています。


 一方、ある種の乳酸菌を摂取すると、体内でTh1細胞が増強され、それに伴いTh2細胞が抑制されます(Th1/Th2バランスの制御)。その結果、IgE抗体の産生が抑制され、アレルギー発症が抑えられます。これは、花粉症などのアレルギー性疾患に対する乳酸菌の予防効果の有力なメカニズムとなっています。わかりやすく説明すれば、生活環境が衛生的になって微生物に接触する機会が少なくなってしまったかわりに、乳酸菌(もちろん微生物です)を意識的に摂取して、免疫系に本来の仕事を行ってもらおうということです。


 ところで、「ある種の」乳酸菌と書きましたが、どうやら乳酸菌やビフィズス菌ならどれでも効果があるというわけではないようです。上述のGG菌以外では、キリンのKW3110株カルピスのL-92株についての学術情報(学会発表や論文など)をよく目にします。下の写真は、これらの乳酸菌を利用して開発された製品(左:キリンヤクルトネクストステージ「ノアレ」、右:カルピス「アレルケア」)で、いずれもタブレットタイプの食品です。


 当初、KW3110株やL-92株を利用したキリンやカルピスの製品は、飲料タイプのものが中心でしたが、現在ではタブレットタイプに力を入れているようです。ある程度の量の乳酸菌の菌体を摂取するには、タブレット(錠剤)のような形の方が適しているのかもしれません。乳酸菌飲料やヨーグルトといった形で、乳酸菌を定期的に必要量摂取するのは結構たいへんなことです。下の写真の製品は、いずれも飲料タイプのものですが、350mlとかなりのボリュームがあります(現在は、製造販売されていない製品です)。


 3社の扱っている乳酸菌と製品を紹介しましたが、ヤクルトのLactobacillus caseiシロタ株は古くから乳酸菌飲料に用いられてきた菌で、この菌を用いた免疫・アレルギー関係の研究成果も数多く報告されています。ヤクルト社の「ヘルシスト」には、「プロバイオティクスによるアレルギー抑制への期待」と題したわかりやすい解説が掲載されています。他にも、乳酸菌では、明治乳業のOLL2809株オハヨー乳業のL-55株、ビフィズス菌では、森永乳業のBB536株協同乳業のLKM512株なども花粉症に対する効果が報告されています。


 私の周囲にも、乳酸菌や発酵乳の摂取により花粉症の苦しさからかなり開放されたと言われる方がいます。残念ながら効果があまりなかったという方もいますが、花粉症に苦しまれている方は、一度試される価値があると思っています。

 前回(No.38「グリシンは快眠アミノ酸」)も触れましたが、こういった製品(食品)は医薬品でも特定保健用食品でもないため、その効果効能の表示はいっさいありません。しかし、だからといって効き目がないというわけではありません。また、乳酸菌は非常に安全性の高い食品素材ですので、副作用などの心配がほとんどないのも安心な点です。どの製品(乳酸菌あるいはビフィズス菌)が最も効果があるのかは、私にもわかりませんが、摂取する方との相性(個人差)といったようなものもあるはずです。


 厚生労働省の研究班(代表:千葉大学・岡本美孝教授)が、「花粉症の民間医療について」という調査結果をまとめています。これを見ると、調査対象者(アレルギー性鼻炎患者、成人6700名、小児1800名)のうち、成人19%、小児9%が何らかの民間療法を利用していたとのことです。民間療法の内容は実に多彩で、食品だけでも50種類以上のものがあげられていますが、多くの食品の効果はそれほど高くありませんでした。

 この調査でも、乳酸菌やヨーグルトを使用頻度の増加している民間療法として注目していますが、「効果あり」と判断した患者さんの数は30%以下となっています。ただ、この研究班の調査では、患者さんが摂取した乳酸菌の種類までは考慮していないので、本稿で紹介した特定の乳酸菌やビフィズス菌の効果との関連性を論じることは難しいかと思います。


 乳酸菌に限らず、民間療法への過度の依存は危険な場合もありますので、花粉症などのアレルギー性疾患への対応の基本は専門医への受診となります。インターネットで「花粉症」を検索すると、実に多くのサイトが見つかりますが、信頼できる情報源として、厚生労働省のホームページに掲載されている「花粉集特集」をあげておきます。また、乳酸菌や発酵乳全般に関しては、社団法人全国発酵乳乳酸菌飲料協会・発酵乳乳酸菌飲料公正取引協議会のホームページにある情報が有用です。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
187:プリン体と戦う(2015/04/27)
160:食べて治す食物アレルギー(2014/03/10)
159:花粉の季節が到来(2014/02/25)
128:食物アレルギー対応食品(2012/11/12)
111:インフルエンザ予防と食品(2012/02/28)
94:ビフィズス菌はデリケート(2011/06/11)
86:乳酸菌・ビフィズス菌と特許(2011/02/10)
82:乳酸菌で虫歯・歯周病予防(2010/12/10)
73:乳酸菌飲料の国際化(2010/07/26)
66:オルニチンと大人のヨーグルト(2010/04/12)
60:宇宙を旅したヨーグルト(2010/01/12)
50:乳酸菌でメタボ対策(2009/08/10)
47:プロバイオティクス・ストロー(2009/06/26)
43:幻のカレーヨーグルト(2009/04/27)
27:機能性食品の可能性と限界(2008/08/25)
22:機能性食品先進国フィンランド(2008/06/10)
11:健康食品・機能性食品・特定保健用食品(2007/12/25)
食品のトピックス | 11:58 | 2009.02.25 Wednesday |