2009.03.25 Wednesday
だから売れた!
No.41
週刊ポストに、「だから売れた!」というヒット製品を解説している連載があります。週刊誌の記事は、疑問を感じる内容が多いのですが、連載にはかなり質のよいものもあります。たとえば、同じく週刊ポストの「メタルカラーの時代」は、16年間(784回)も続いた評価の高い連載でした。
「だから売れた!」は、第62回まで続いていますが(2009年3年25日現在)、これまでに食品もよく取り上げられてきました。いくつかあげると、「男前豆腐」、「植物性乳酸菌ラブレ」、「黒烏龍茶」、「ミルクシーフードヌードル」、「ジャガビー」、「メガマック」、「セサミンEプラス」、「氷結ストロング」、「チーザ」といったものがあります。これらのヒット背景が、製品開発やマーケティングといった面からコンパクトに解説されています。
この連載は、「超立体解析『インフォ・ビジュアル』で一目瞭然」をウリにしており、視覚にうったえた誌面構成が特徴です。なお、食品以外でも、大衆薬、家電製品、家庭用品、自動車、事務用品、衣類など広範な製品が対象となっています。記事を読むまで、私はヒットしていたことさえ知らなかった製品が少なからずありました。
ごく最近紹介された食品として日本ハムの「コラーゲン玉」があります(2009年3月27日号)。コラーゲンは私も大きな関心をもっている食品素材なので(No.9「コラーゲンとコラーゲンペプチド」、No.36「コラーゲンとメイラード反応」)、なかなか面白い製品として注目していました。この記事を読んで製品化にいたるまでの道のりがよくわかりました。
「だから売れた!」は、週刊ポストに掲載されてから数ヶ月経つと、この連載を取材・構成している株式会社オフィスサンサーラのホームページでPDFファイルとして見ることができます(2009年3月25日現在No.60まで閲覧可能)。また、単行本化の計画(東京書籍)もあることが、オフィスサンサーラ代表取締役の大嶋賢洋氏のブログに出ていました。
以前、『雪見大福はなぜ大ヒットしたのか』(講談社+α文庫、¥600)という書籍を紹介したことがありました(No.15「チザイのヒト」)。この本でも、様々なヒット製品の技術的特徴を特許などの知的財産の面から紹介しています。しかし、製品のヒットは、開発にかかわる技術的な要因だけでは説明できるものではありません。特に食品の場合は、「最新の知見」や「高度な技術」がなかなかヒットに直結しません。『戦略PR』(アスキー新書、¥780)という今年1月に出版された本を読むと、「売り方」の大切さがわかります。
私がこの本を買ったのは、帯に「ピロリ菌」と書かれていたからでした。最近のこの欄(No.38「グリシンは快眠アミノ酸」)でも触れた明治乳業の「LG21」というヨーグルトの成功秘話が紹介されていると思ったのです。お目当てのLG21については、わずか1ページ程度の記述でしたが、全体としては結構興味深い本でした。一昨年発売された永谷園の「『冷え知らず』さんの生姜シリーズ」のヒットにいたるまでの戦略が、かなり詳細に書かれています。ヒット製品を誕生させるには、テレビや新聞といった広告に依存するだけでは難しく、製品自体の宣伝をする前に、「世論」や「空気」といった製品が受け入れられる下地を作っておくことが重要とのことです。
詳しくはこの本を読んでいただければよいと思いますが、プレスリリースやファクトシートをメディアに発信して新聞やテレビで紹介されることや、インターネット(ブログ)による「ネットクチコミ」などが、これからの戦略PRには欠かせないようです。これは、莫大な費用を要するテレビCMや新聞・雑誌広告を使わなくてもヒット商品を生み出せる可能性がある点において、資金力の乏しい中小のメーカーにとっては朗報でしょう。『新聞・TVが消える日』(集英社新書、¥735)という本が出るほどメディアの状況は変わっているのですから、広告・宣伝手法が抜本的に変化するのも当然のことです。
『戦略PR』という本は、昨年1月に出版されてベストセラーとなった『明日の広告』(アスキー新書、¥780)の続編的な位置づけなので(著者は異なります)、両者を併せて読まれるとよいかもしれません。なお、『明日の広告』でも、LG21が取り上げられていますので、この製品のヒットというのは、きっと「戦略PR」や「明日の広告」を考えるうえで非常に重要な事例なのでしょう。これまでにこのトピックス欄で紹介してきた、シトルリン(No.18「シトルリンブームは来るか」)、アスタキサンチン(No.25「アスタキサンチンと化粧品」)、グリシン(No.38「グリシンは快眠アミノ酸」)、乳酸菌(No.39「花粉症と乳酸菌」)、初乳(No.40「たたかう初乳」)といった素材を利用した製品も、何がしかの新しいPRや広告手法を取り入れているように感じられます。
ヒット製品の「成功秘話」の類が色々なところで紹介されていますが、一方で「失敗から学ぶ」ということの大切さもよく言われます。「だから売れた!」だけでなく、「どうして売れなかった?」という企画もあってよいのではないかと思っています。なかなか取材が難しいのかもしれませんが、いかがなものでしょうか、週刊ポストさん。
日経ビジネスという雑誌には、「敗軍の将、兵を語る」という人気連載があります。毎回、事業に失敗した経営者、選挙に落選した政治家といった方々が、事の経緯を赤裸々に語っています。最近掲載された食品に関係するものとして、三笠フーズ関連会社から仕入れた事故米で製造した焼酎を自主回収し、76万本を廃棄処分した西酒造の社長による話がありました(2009年2月16日号)。この記事で、テレビや新聞の報道ではわからなかった真相の一端を知ることができました。
〜追記〜
2009/04/27
週刊ポストの連載「だから売れた!」は、残念なことに2009年5月1日号(2009年4月20日発売)を最後に終了しました。連載終了の経緯については、大嶋賢洋氏のブログをご覧ください。
〜追記(2)〜
2009/06/26
本文中で、「だから売れた!」の単行本化について紹介しましたが、先日(2009/6/13)、東京書籍より出版されました(大嶋まさひろ著、東京書籍、¥1,470)。アマゾンのカスタマーレビューなどを見ると、好意的なコメントが多いようです。私も早速注文しました。
その他のトピックス | 11:44 | 2009.03.25 Wednesday |