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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ペプチドと特定保健用食品

No.46


 今回は、私の本業(?)であるペプチドの話です。既にこのトピックス欄でも度々書いてきたように、ペプチドはいくつかのアミノ酸がつながったものです(No.1「注目される食品成分ペプチド」)。また、タンパク質の側から見ると、酵素などの働きにより分解されてできるのがペプチドです。アミノ酸やタンパク質の中間に位置する物質とも言えるペプチドですが、残念ながらまだその知名度はアミノ酸やタンパク質には及びません。


 ペプチドの食品への利用は、現在、主に食品タンパク質の酵素分解物を添加する形で行われています。サプリメントなど非常に多くの食品(健康食品や機能性食品)にペプチド性素材が添加されていますが、利用されている素材の詳細や目的がよくわからないものも少なくありません。そこで、ここでは使用成分(ペプチド)や使用目的などが明確にされている特定保健用食品(トクホ)にしぼり、ペプチド利用の状況を紹介することにします。

 2009年5月19日現在、857製品が特定保健用食品の表示許可を得ています。そのうちペプチドやタンパク質分解物が「関与する成分」となっているのは146製品(全体の約17%)です。なお、特定保健用食品の最新の許可状況は、厚生労働省のホームページ財団法人日本健康・栄養食品協会のホームページから知ることができます。

 現在、特定保健用食品に利用されているペプチド性素材(食品タンパク質分解物など)として、13種類のものがあります(下表)。とくにサーデンペプチド(血圧降下ペプチドを含む鰯肉タンパク質分解物素材)が、57製品(18メーカー)に利用されているのが目立ちます。


 これらの146製品を、利用されているペプチド性素材の保健的機能別に見ると(下表)、血圧調節機能を有する素材を用いたものが90製品(29メーカー)と突出して多く、ペプチドを利用した特定保健用食品の約62%(90/146製品)に相当します。


 1995年にカゼインドデカペプチド(血圧降下ペプチド)を配合した飲料(カネボウ「カゼインDP」)が、カゼインホスホペプチド(カルシウム吸収促進ペプチド)を配合した飲料(サントリー「鉄骨飲料」)とともに、特定保健用食品として厚生省(現厚生労働省)から表示許可を得、ペプチドを利用した特定保健用食品の最初のものとなりました。その後、血圧降下ペプチドを含む食品素材が次々と開発され、「血圧の高めの方に」適した食品がペプチドを利用した特定保健用食品の大きな部分を占める存在となるに至っています。下に示した飲料タイプの製品は、テレビコマーシャルやスーパーの棚でよく目にするものです。


 また、薬局やドラッグストアでは、下の写真にあるようなタブレットや粉末タイプの製品も置かれています。


 血圧降下ペプチド以外では、虫歯予防効果のあるカゼインホスホペプチド−非結晶リン酸カルシウム複合体(CPP-ACP)を利用したものが26製品と多いのですが、そのうち25製品はキャドバリー・ジャパンの製品(下左写真)です。明治乳業は、昨年、CPP-ACP利用製品で特定保健用食品の許可を得ましたが、今年4月に発売した製品(下右写真)は、特定保健用食品表示のないものです。はっきりとした理由はわかりませんが、特定保健用食品の消費者に対する訴求力が乏しいと判断したのかもしれません。


 その他、中性脂肪調節作用のあるグロビン蛋白分解物、コレステロール調節作用のあるリン脂質結合大豆ペプチド、カルシウムの吸収促進作用のあるカゼインホスホペプチド(CPP)を添加した製品がペプチドを利用した特定保健用食品として製品化されています(下写真)。


 ペプチドを利用した特定保健用食品製品形態は、飲料やタブレットといったサプリメント的な製品が多く、まだ「食品らしい食品」が少ないのが課題と言えるかもしれません。これまでにペプチド性素材を利用した特定保健用食品の許可を得た企業を見ると(下表)、製品数トップは26製品の東洋新薬です。この会社はペプチド以外の素材を利用した製品も多く、全特定保健用食品857製品中143製品(17%)の許可を得ている特定保健用食品開発に熱心な企業です。また、それぞれの企業の製品を眺めると、1つの素材だけを利用している企業がほとんどで、1社で2素材を特定保健用食品に利用しているのは、東洋新薬、キリンヤクルトネクストステージ、サントリー食品、ハウスウェルネスフーズの4社だけです。


 なお、上の表には許可製品数が1つの企業は載せていませんが、明治製菓、新日本製薬、森永乳業、ファイルド、日新薬品工業、アサヒフードアンドヘルスケア、ミコー、日清ファルマ、メディア・プライス、日本クリニック、アムスライフサイエンス、ラ・パルレ、太子食品工業、アサヒ飲料、アピ、エバーライフ、クラシエ製薬、ヤマキ、明治乳業、キリンビバレッジといった企業が続いています。

 2002年まではペプチドを利用した特定保健用食品の許可件数は少なかったのですが(累計24製品)、2003年以降は毎年10製品以上が新たに許可を得ています(2003年:18製品、2004年:10製品、2005年:19製品、2006年:13製品、2007年:35製品、2008年:19製品)。特定保健用食品全体に占めるペプチドを利用した製品の割合も、2002年以前は9%(24/262製品)に過ぎませんでしたが、2003年以降は21%(114/543製品)とかなり大きな数字になっています。まだ製品数の少ない大手企業も多いことなどから、今後もペプチド性素材を利用した特定保健用食品は発展していくように思われます。

 食品タンパク質分解物を中心とするペプチド性素材を利用した機能性食品が数多く開発されてきました。しかし、これまでに明らかにされたペプチドの保健的機能の一部だけが実際の食品に利用されているに過ぎません。特定保健用食品においても、ペプチドを利用した製品はまだ5つのカテゴリーだけで、しかも圧倒的に多いのは「血圧が高めの方に」適した食品です。今後は、抗酸化、抗ストレス、抗疲労、抗菌、免疫調節、オピオイドといったすでに十分な研究成果が蓄積されているペプチドの機能を積極的に生かした機能性食品(特定保健用食品)の登場が待たれます。

 今回紹介した内容は、現在編集作業を進めている『機能性ペプチドの最新応用技術 〜食品・化粧品・ペットフードへの展開〜』(有原圭三監修、シーエムシー出版)という書籍の第3章「食品におけるペプチド利用」の一部に加筆したものです。この書籍は、今年の夏には刊行できそうとのことですので、ペプチドについて詳しいことが知りたい方はぜひご覧になってください。書籍の内容(目次など)については、あらためて紹介するつもりです。



〜追記〜

2009/08/17


 本文中で紹介しました書籍『機能性ペプチドの最新応用技術〜食品・化粧品・ペットフードへの展開〜』が8月7日に出版されました。内容については、株式会社シーエムシー出版のホームページをご覧ください。


この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
192:ビールでも機能性食品(2015/07/10)
186:機能性ペプチドの書籍を監修(2015/04/10)
61:ペプチドと特許(2010/01/25)
58:「消費者庁許可」特定保健用食品の行方(2009/12/11)
53:ペプチドと化粧品(2009/09/28)
51:ペプチドの書籍を監修(2009/08/25)
50:乳酸菌でメタボ対策(2009/08/10)
27:機能性食品の可能性と限界(2008/08/25)
11:健康食品・機能性食品・特定保健用食品(2007/12/25)
5:ペプチドは、おいしい!?(2007/09/14)
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ペプチドのトピックス | 10:43 | 2009.06.10 Wednesday |