2009.07.27 Monday
ゼロ飲料・ゼロ食品
No.49
「ゼロ飲料」あるいは「ゼロ食品」と呼ばれる製品が、最近多く見られます。かなり定着しているので今更の感もありますが、今回はこのゼロ飲料とゼロ食品を取り上げることにします。市内のスーパーを探すと、思っていたよりも多くの「ゼロ(0)」とパッケージに書かれた食品が見つかりました。数店を回って買い集めたものが、下の写真の製品です(写真をクリックすると拡大写真がご覧いただけます)。
これらの飲料や食品で「ゼロ」と言っているのは、主に「カロリー」、「糖質」、「脂肪」、「コレステロール」です。随分昔から米国では、“Fat Free”とか“Cholesterol Free”と書かれた食品が多くありましたし、Diet Coke(ダイエットコーク)を代表とするダイエット飲料もよく飲まれていました。しかし、日本ではこの種の食品は、おいしさが劣るために広く受け入れられることはありませんでした。近年の「ゼロ食品ブーム」は、健康志向の高まりに加えて、おいしさの問題をある程度解決できたことも大きな要因です。「ペプシネックス」や「コカ・コーラゼロ」のヒットは、その良い例でしょう。
2006年3月に発売されたペプシネックスは、ゼロ飲料ブームの火付け役になったとも言われ、コカ・コーラゼロは、その翌年6月に発売されました。これらのカロリーゼロあるいは糖質ゼロ飲料は、カロリーの非常に低い甘味料を使用して甘味を得ています。この種の甘味料の代表的なものとして「アスパルテーム」があり、多くの食品に利用されてきましたが、最近はより自然な甘味を得るために、いくつかの甘味料を混合して利用している製品が増えています。下に示したのは、コカ・コーラゼロの表示です。甘味料として、3種類のものが記載されています。なお、「カロリーゼロ」は厳密なゼロカロリーを意味しておらず、健康増進法による栄養表示基準では、100mlあたり5キロカロリー未満であれば「カロリーゼロ」や「ノンカロリー」と表示できるとしています。「糖質ゼロ」も同様で、100mlあたり糖質0.5グラム未満であれば、表示可能です。
アスパルテームは、糖ではなくアミノ酸からできているペプチド(アスパラギン酸とフェニルアラニンのメチルエステルが結合)であるため、きわめてカロリーの低い甘味料です。1965年に米国で開発され、砂糖の約200倍の甘さを示します。ただ、少し特徴的な後味があることから、アセスルファムKやスクラロースといった甘味料と併用して用いられることが多くなっています。アスパルテームを利用した卓上甘味料として味の素の「パルスイート」があります(写真下左)。一方、「スクラロース」はその優れた甘味から急速に普及している甘味料です。スクラロースは、1976年にイギリスで砂糖を基に開発された甘味料ですが、砂糖の約600倍の甘さがあります。スクラロースだけを甘味料として添加している製品や、コカ・コーラゼロのようにアスパルテーム等の甘味料と併用している製品があります。写真下右は、スクラロースを利用した三井製糖の卓上甘味料「カロリーゼロ」です。
コーラ以外のカロリーゼロや糖質ゼロの飲料として、下の写真にあるような製品があります。「ファンタゼロ」と「三ツ矢サイダーオールゼロ」は炭酸飲料です。先日の読売新聞の記事(2009/7/25)によると、少子高齢化により飲料市場が縮小するなかで、炭酸飲料だけは伸びが大きいそうです。これは低カロリーのゼロ飲料の登場で、炭酸飲料の不健康なイメージが変わったためと解説されていました。誕生してから126年も経つ国民的飲料とも言える「三ツ矢サイダー」は、1997年をピークにして出荷数が減り続けていましたが、2004年のリニューアル製品と今年6月に発売した「オールゼロ」はヒットしました。オールゼロは、砂糖を使用せずに伝統の味を再現することに苦労し、行き着いたのは2種類の甘味料とリンゴ酸の併用だったそうです。
ゼロ飲料とは関係ありませんが、最近、『なぜ三ツ矢サイダーは生き残れたのか』(立石勝規著, 講談社, ¥1,400)という本を読みました。何度か新聞や雑誌の書評欄で紹介されていたので買ってみましたが、なかなか読み物として面白い内容でした。この本を読むと、久しぶりに三ツ矢サイダーを飲みたくなる方が多いと思います。
缶コーヒーでも、糖類ゼロを前面に出している製品がいくつか見られます。ただ、コーヒーの味はかなりデリケートなので、個人的には低カロリー甘味料よりも砂糖を使用したもの(あるいはブラック)が好きなのですが、皆さんはいかがでしょうか。
糖質ゼロが多い製品として、アルコール飲料があります。テレビ等の広告が非常に盛んなので、発泡酒や缶チューハイの製品はご存知の方が多いと思います。日本酒にも糖質ゼロのものがあるのを、私は知りませんでした。
食肉製品は、私の研究対象でもあり、日本ハムの糖質ゼロ製品「新鮮生活ZERO」シリーズは注目していました。特に食肉製品は、「おいしさが命」とも言える食品なので、糖質無添加により少しでも嗜好性が低下すれば、消費者は選択しないだろうと思っていました。また、パッケージの青色も食肉製品としてはかなり思い切った色使いです。最近目にした週刊誌の記事(週刊ポスト2009/7/24号)に、この製品の誕生秘話が日本ハムの開発担当者によって語られていましたが、満足のいく製品が得られるまでに相当の苦労があったようです。そのかいあってか、順調に売り上げを伸ばしているとのことです。この種の健康志向の食肉製品は成功例(ヒット製品)があまりなかったのですが、今後の大きな弾みになるかもしれません。
「脂肪ゼロ」の製品についても触れておきたいと思います。私が気になる製品として「プレーンヨーグルト」があります。これまでも、脂肪ゼロのヨーグルトはありましたが、いずれもフルーツ味の製品で、森永乳業の「ビヒダスプレーンヨーグルト脂肪ゼロ」という製品が最初の脂肪ゼロのプレーンヨーグルトとなりました(2008年11月発売開始)。脱脂乳からヨーグルトを作ると、食感がかなり悪くなってしまいますが、森永乳業では、原料乳を特殊膜に通す処理を行うことと、低温発酵により克服したとのことです。また、明治乳業の「ブルガリアヨーグルト脂肪ゼロ」では、「まろやか丹念発酵」技術の採用により、この問題を解決しています。グリコの「おいしいカスピ海脂肪ゼロ」は、粘性物質を産生する乳酸菌(Lactococcus cremoris GCL1176)の利用により、「とろーりとろとろ」(パッケージ記載のフレーズ)のヨーグルトを作っています。
最後に、「コレステロールゼロ」の製品をいくつか紹介しておきます。よく見かけるものとして、マヨネーズタイプのドレッシングがあります。日本農林規格(JAS規格)は、マヨネーズの原材料をかなり厳格に規定しているため、「キューピーゼロ」や「日清マヨドレ」のようにマヨネーズのように見える製品でも、マヨネーズと呼ぶことはできません。特に、日清マヨドレは、卵を使用せずにデンプンなどの植物性素材を主原料としているので、本来のマヨネーズとはかなり異なる製品です。以前、「松田のマヨネーズ」という製品が、砂糖のかわりにハチミツを使っていたため、行政指導を受けて「松田のマヨネーズタイプ」に変更したという話がありました。ここまで厳格である必要があるのでしょうか。なお、全国マヨネーズ・ドレッシング類協会のホームページには、各社の製品の紹介など充実した情報が掲載されています。「マヨネーズ発祥の地」というページには、スペイン・マヨルカ島の美しい写真があります。
ゼロ飲料やゼロ食品はすでに一過性のブームではなく、確固とした食品カテゴリーが形成されたように感じられます。今回取り上げたもの以外にも、チョコレート、ゼリー、飴、ガムといった菓子類にも比較的多くの糖質ゼロ製品が見られます。機能性食品など、いわゆる「体に良い食品」の主流は、確実に「まずくても体に良い」から「おいしくて体に良い」ものに移りつつあります。現在売れているゼロ飲料・ゼロ食品の多くは、「おいしいゼロ」と言えるものではないでしょうか。
食品のトピックス | 11:31 | 2009.07.27 Monday |