<< March 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

<< 売れないのは誰のせい? | main | 美味しい非常食 >>

ペプチドと化粧品

No.53


 前々回(No.51「ペプチドの書籍を監修」)、『機能性ペプチドの最新応用技術』という書籍を紹介しましたが、この本のサブタイトルは「〜食品・化粧品・ペットフードへの展開〜」です。すでに食品やペットフードにおけるペプチドの利用については何回か取り上げてきましたので(No.10「ペプチドは魅力的なペットフード素材」No.46「ペプチドと特定保健用食品」を参照)、今回は化粧品におけるペプチドの利用について少し解説することにします。


 正直なところ、私は上記の書籍の監修に関わるまで、化粧品の原料としてペプチドがどのように利用されているのかは、よく把握していませんでした。コラーゲンペプチドやシルクペプチドが化粧品に配合されているということは知っていましたが、その程度のものでした。あらためて家の中にある化粧品類のラベルを見ると、ペプチド素材といえる原料が予想以上に多くの製品に利用されていました。スーパーの棚にある製品(乳液、洗顔剤、シャンプー・リンスなど)のラベルも見てみましたが、ペプチドらしきものが結構見つかりました。余談ですが、化粧品類は使用している原料の種類が多いためか、原料表示の文字が非常に小さく、最近老眼気味の私は閉口しました。下に示したのは、スキンケア化粧品の成分表示の例ですが、「加水分解コラーゲン」や「加水分解ダイズタンパク」などのペプチド性素材がいくつか記載されています(写真をクリックすると拡大されます)。


 食品に利用されているペプチド素材の大部分は、食品タンパク質を分解したものですが(No.46「ペプチドと特定保健用食品」参照)、化粧品の場合はもう少し多岐に渡っています。国際的な化粧品原料リストであるINCI(International Nomenclature of Cosmetic Ingredients)には、ペプチド原料が200種以上あり、日本化粧品工業連合会の定める化粧品原料の表示名称も100種近くあります。タンパク質分解物以外では、化学合成ペプチドやペプチドを有効成分とする植物抽出液や発酵物などがあげられています。

 コラーゲン、ケラチン、カゼイン、シルク、コンキオリン、大豆・エンドウ・米・小麦タンパク質といった原料を加水分解して調製したペプチド(タンパク質分解物)は、化粧品原料として古くから用いられています。ペプチドを化粧品に使用するのは、ヘアケア(毛髪化粧品)やスキンケア(皮膚化粧品)に対する効果を期待する場合が多いようですが、ほとんどのタンパク質分解物には保湿効果があると言われており、これは毛髪や皮膚にとって重要な働きです。また、これらのタンパク質分解物を化学修飾して調製した誘導体も毛髪化粧品を中心に多くの製品に利用されています(下表参照)。たとえば、ペプチドをシリル化誘導体にすると、疎水性のシリコーンを親水性の毛髪表面に吸着させることにより滑らかさを与えることができます。


 ペプチドの皮膚への作用も様々な検討がされています。パルミトペンタペプチド(Pal-Lys-Thr-Thr-Lys-Ser, 合成ペンタペプチドにパルミチン酸を結合させたもの)は、コラーゲンやエラスチンの生成促進効果があるとされ、スキンケア製品に利用されています。パルミトペンタペプチドの抗シワ作用や、アセチルヘキサペプチドの表情ジワに対する効果は、化粧品業界ではよく知られているようです。また、各種のタンパク質分解物は、皮膚のシワ形成やハリ低下を防止するとも言われています。いわゆる美白効果も皮膚化粧品では重要なものですが、絹由来ペプチドや魚類卵巣由来ペプチドなどのメラニン生成抑制作用が示されています。多くのペプチドが抗酸化作用を示すことが報告されていますので、この面からもペプチドを皮膚に塗布するのは悪くない感じがします。

 残念ながら、ペプチドと化粧品に関する利用しやすい文献(情報)は、あまり多いとは言えません。これには、大学における化粧品研究がそれほど盛んでないことも関係しているのかもしれません。少なくとも日本の大学には「化粧品学科」はありませんし、研究室の名前に「化粧品」が入っているところもごくわずかです。

 あるホームページに、「化粧品会社に勤めるには何学部へ入ればよいですか?」という受験生の質問がありました。現状ではぴったりの学部はないようで、回答では薬学部や農学部(獣医学部)があげられていました。化粧品領域の産業規模や特許出願状況(No.24「ペットフードと特許」参照)等を考えると、いずれ「化粧品学科」が誕生するかもしれません。現在のところ、東京工科大学応用生物学部の先端化粧品コース千葉科学大学薬学部の化粧品科学コースが貴重な存在です。なお、来年、東京農業大学の生物産業学部に「食品香粧学科」ができるそうです(現在の「食品科学科」からの名称変更)。


 冒頭にあげた書籍『機能性ペプチドの最新応用技術 〜食品・化粧品・ペットフードへの展開〜』は、ペプチドと化粧品についての貴重な情報源だと考えています。それ以外では、フレグランスジャーナルの2008年3月号(No.332)に掲載された特集「ペプチド原料の動向と化粧品分野への応用」が比較的新しくまとまった情報として有用です。フレグランスジャーナル社のホームページで、特集の目次がご覧になれます。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
186:機能性ペプチドの書籍を監修(2015/04/10)
126:セラミドと美肌食品(2012/10/10)
115:カタツムリ・ナマコ・キャビア(2012/04/25)
95:ヘビ毒ペプチドでスキンケア!?(2011/06/24)
51:ペプチドの書籍を監修(2009/08/25)
46:ペプチドと特定保健用食品(2009/06/10)
25:アスタキサンチンと化粧品(2008/07/25)
9:コラーゲンとコラーゲンペプチド(2007/11/26)
ペプチドのトピックス | 12:02 | 2009.09.28 Monday |