2009.12.11 Friday
「消費者庁許可」特定保健用食品の行方
No.58
消費者庁の発足(2009/9/1)に伴い、特定保健用食品(通称:トクホ)の業務も厚生労働省から消費者庁に移りました。トクホのマークも、「厚生労働省許可」から「消費者庁許可」に変わります。マークはちょっとした変化ですが、消費者のトクホに対するイメージが少し変わるような気もします。
今年は消費者庁の発足以外にも、トクホ制度にとって大きな出来事がありました。花王「エコナ」のトクホ許可返上です。エコナは1990年に販売が開始され、1998年にトクホの許可を得ました(1999年にトクホとして発売開始)。以後、順調に成長して、エコナ関連製品(計59商品)の売り上げは年間200億円を突破しました。
しかし、今年6月に発がん性物質に変わる可能性のある「グリシドール脂肪酸エステル」が、エコナには通常の食用油よりも多く(10〜180倍程度)含まれていることが判明しました。花王は安全性には問題がないとしてきたものの、エコナ関連製品の販売自粛(出荷停止)を決定しました(2009/9/16)。その後さらに、トクホの表示許可を返上する失効届を消費者庁に提出するに至っています(2009/10/8)。
福島瑞穂消費者担当相は、特定保健用食品について、「果たしている役割が適切か根本的に見直したい」と発言し(2009/10/22)、トクホ制度の廃止も含めて見直す方針を明らかにしました。10月25日には、消費者庁で「健康食品の表示に関する検討会」の初会合が開かれ、消費者団体関係者や大学教授、弁護士ら13人による議論が始まりました。来年3月まで計6回の検討会を開催し、トクホの表示の仕方や安全性への対応などについて議論するとのことです。
モノが売れない時代(No.52「売れないのは誰のせい?」)だと言われていますが、トクホ市場は堅調に拡大し、1997年から2007年にかけて市場規模は5倍以上になっており(下グラフ参照)、現在では約7,000億円近い市場ができています。あまり抜本的な制度改革を行うと、せっかく形成された市場を損ねてしまう危惧もあります。
最近1年間で128品目のトクホが表示許可を得ています。しかし、「関与する成分」(保健的機能性成分)として新たに認められたものはありません。ここしばらく、あまり目新しいトクホが登場していないとも言えます。新規成分として最も新しく認められたものは、2008年6月に表示許可を得た山崎製パン「モーニングバランス」に使用されている「難消化性再結晶アミロース」(血糖値調節作用)です。それ以前では、ダイドードリンコ「燕龍茶レベルケア」の「燕龍茶フラボノイド」(血圧調節作用, 2007年8月)や、不二製油の「大豆βコングリシニン」(中性脂肪調節作用, 2007年6月)があります。近年のトクホ新規成分の許可数はいささか少なく、2005年:5成分、2006年:3成分、2007年:3成分:2008年:1成分、2009年:0と、減少傾向は明らかです。
2003年に食品安全委員会が発足し、食品に対して一段と高度な安全性を求めるようになりました。トクホに使用する新規の保健的機能性成分を誕生させるためには、消費者委員会と食品安全委員会のいずれの審査もクリアする必要があり、そのハードルはかなり高くなっています。なお、トクホ制度の詳細については、財団法人日本健康・栄養食品協会のホームページをご覧ください。
ところで、明治乳業の「プロビオヨーグルトLG21」というヒット製品については、これまでもこの欄で何度か紹介しました。LG21はトクホではありませんが、「高付加価値・機能性ヨーグルト」というべきものです。薬事法を始めとする関連法規に触れずに、ピロリ菌に対する効果(胃潰瘍予防作用など)をうまく消費者に伝えることに成功しています。2009年3月期決算では売上高が300億円を突破しており、エコナの200億円と比べると額の大きさがわかると思います。
明治乳業は、先日(2009/12/1)新しい高付加価値・機能性ヨーグルトを発売しました。「明治ヨーグルトR-1」です。「LG21の青」と「R-1の赤」は、見事に対比しているパッケージデザインです。この製品は、免疫機能を改善する効果を有する多糖体(EPS)を産生する乳酸菌(Lactobacillus bulgaricus OLL1073R-1)を使用しています。明治乳業のプレスリリースによると、このヨーグルトの摂取により免疫力が高まり、風邪をひきにくくなることをすでにヒト試験により確認しているとのことです。ただ、LG21と同様にトクホではないので、今後どのように消費者に製品の価値を伝えていくのかが注目されます。
特定保健用食品は、2009年8月27日現在、894品目が表示許可を得ています。しかし、今年9月の消費庁発足以降、新たなトクホの審査作業が遅れています。今後のトクホの行方が不透明なことなどもあり、魅力が失われてしまうことも危惧されます。上述の明治乳業の製品のように、トクホ以外の道で機能性食品をPRすることも可能です。トクホは審査を厳しくする一方で、それに値するメリットも考えないと、制度の発展は難しいかもしれません。現在進められている「健康食品の表示に関する検討会」における作業の行方が気になります。
食品のトピックス | 10:12 | 2009.12.11 Friday |