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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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国産チーズの増産

No.62


 先日報道された2010年度の政府予算案に、「国産チーズ供給拡大・高付加価値化対策事業」(29億1,400万円, PDF:34KB)という農林水産省関係予算がありました。この予算は、昨年11月の行政刷新会議による仕分け作業の対象になりましたが、幸いにして概算要求(29億2,700万円)に近い額が認められました。なお、農林水産省のバイオ関連予算は、前年の223億円から497億円と大幅増となっています。これは、「食料自給率向上」、「農商工連携」、「再生可能エネルギー推進」という重点政策が積極的に盛り込まれたためです。


 農林水産省の「酪農及び肉用牛生産の近代化を図るための基本方針」(2005年3月, PDF:198KB)には、「輸入品と価格面で競争し得るチーズ等の需要拡大を推進する」という記述があり、行政は国内チーズの増産を後押ししてきました。ここ数年の間に、雪印乳業、明治乳業、森永乳業といった大手乳業メーカーも、国産チーズの増産を目指して北海道などに工場を新増設しています。すでに個性的な国産チーズも誕生しつつあります。下の写真はかなり前からある製品ですが、よつ葉乳業の「手造りブルー&カマンベール」で、外からみると白カビチーズですが、中は青カビチーズというユニークなナチュラルチーズです。


 チーズには、「ナチュラルチーズ」と「プロセスチーズ」があることは、ご存知の方が多いと思います。ここでは詳しいことは説明しませんが、ナチュラルチーズは「乳を乳酸菌で発酵させ、または乳に酵素を加えてできた凝乳から乳清を除去し、固形状にしたものまたはこれらを熟成したもの」と法令で定義されています(下の写真で学生さんが手にしているのは、代表的なナチュラルチーズのオランダ産ゴーダチーズです)。

 よく見かけるナチュラルチーズとして、ゴーダのほかに、チェダー、カマンベール(白カビ)、ブルー(青カビ)などがあります。ナチュラルチーズについては色々な分類がありますが、手許の書籍では下の7種に分けています。


 一方、プロセスチーズは、「ナチュラルチーズを粉砕し、加熱融解し、乳化したもの」と定義されています。プロセスチーズの歴史は短く、まだ100年程度のものです。冷蔵輸送が困難であった時代に、チーズの殺菌技術の開発過程で誕生したのが、今日のプロセスチーズの原型とも言える加熱殺菌した缶入りチーズでした。その後、数種類のナチュラルチーズを混合したものや、様々な形状に加工したものが登場しました。私が小学生の頃(昭和40年代)は、チーズと言えばプロセスチーズのことで、学校給食などでは下の写真のようなチーズが出されていました(写真は現在市販されているものですので、当時のものとは少し違うかもしれません)。


 日本人のチーズ消費量は大きく伸び、統計を取り始めた1973年に比べると5倍以上になっています。プロセスチーズが主流であった日本のチーズ市場も、1988年にナチュラルチーズが逆転し、現在では6割程度を占めるまでになっています。ただ、いまだに日本国内で流通しているナチュラルチーズは輸入品が主流で、国産ナチュラルチーズの生産量は20%に達していません(下の写真は輸入ナチュラルチーズのパッケージ)。


 さて、冒頭の政府予算案に盛り込まれた「国産チーズ供給拡大・高付加価値化対策事業」ですが、今後チーズ業界ではどのような「高付加価値化」が進められていくのでしょうか。以前、このトピックス欄の「チーズも機能性食品」(No.20, 2008/8/11)で、機能性チーズの可能性について触れましたが、保健的機能性の付与は高付加価値化の有力な方向のひとつでしょう。その他、安全性や嗜好性の面で高度な技術の導入も考えられそうです。

 今回の事業は、国内のチーズ生産量を31万トン(2003年度)から86万トン(2015年度)に引き上げることを数値目標とし、チーズ製造者に拡大数量に応じた奨励金交付や施設設置に対する補助金交付をするものです。資金が有効活用され、国内チーズの増産につながることを期待したいところです。


 チーズについて詳しく勉強したい方には、下の写真の書籍『現代チーズ学』(食品資材研究会, 2008/10出版)が役立つと思います。チーズの本は結構出版されていますが、学術的なものはそれほど多くありません。東北大学の齋藤忠夫教授が、講談社ブルーバックスシリーズとして『チーズの科学』を執筆中という話を聞きましたが、この本の刊行も楽しみです。また、宮崎大学農学部の六車三治男教授が、「国産ナチュラルチーズ生産振興への取り組み」を解説されていますので、こちらもご参照ください。



この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
266:America's Dairyland(2018/08/10)
230:チーズのような豆腐(2017/02/10)
26:チーズも機能性食品(2008/08/11)
20:バター不足と食料危機(2008/05/12)
食品のトピックス | 10:27 | 2010.02.10 Wednesday |