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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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気になるペットビジネス

No.70


 先日、経済誌『週刊東洋経済』(2010年5月29日号)に、「ここまで来たペットビジネス」がカバーストーリーとして掲載されました。46ページにわたる大特集で、ペットフード、獣医師、葬儀・墓、介護問題、マイクロチップ、ペット同伴旅行、ペット共生住宅、動物タレントといった事項について、かなり詳しく解説されていました。


 ペットフードなどペット関連の記事は、新聞や雑誌でよく目にしますが、これほど大きな特集記事は珍しいです。ペット関連ビジネス市場の規模が1兆円を突破し、経済誌も注目する産業となったということでしょうか。今回は、この東洋経済誌の記事を含めて、ペットビジネスの気になる状況について取り上げます。


 東洋経済誌の特集の中で、私がとくに関心をもって読んだのは、研究面での関わりがあるペットフードの部分でした。ペット産業の中心的な存在であるペットフードですが、すでに数量ベースの流通量は2005年以降減少しています(下のグラフ参照)。ただ、金額ベースでは、増加が続いています。この背景として、摂食量の少ない小型犬種に人気が移行していることやペットフードの高付加価値化が進んだことがあげられます。


 ペットフードの主な高付加価値化の方向性として、保健的な機能性を重視した「機能性フード」と、嗜好性を重視した「グルメフード」があります。私たちの研究室でも、「美味しくて体に良い」ペットフードの研究開発(No.21「産学官連携でペットフード開発」参照)をメーカーと共同で進めていますが、時流にあった取り組みと言えそうです。また、ペットの平均寿命が急伸し、高齢ペット向けのフードの開発なども盛んに行われています。2003年度には1億円規模だった10歳以上向けのフード市場は、2009年度には120億円まで急成長しています。


 さらに最近の動向として、人間用のサプリメント(栄養補助食品)を製造販売しているメーカーのペット用サプリメント市場への参入も注目されています。まだペット用サプリメントの市場規模は小さいものの、急成長しており、近い将来、大きな市場を形成するのかもしれません。東洋経済誌の記事では、ペットフードの安心安全志向にも触れていますが、2009年の「ペットフード安全法」の施行が、ペットフードの高品質化・高付加価値化に少なからず影響しているようです。なお、「ペットフード安全法」制定の背景については、No.7「ペットフード安全性確保を巡る情勢」をご覧ください。


 一方で、不況の長期化を背景として、安価なペットフードを求める層の支持を受けた製品の伸びも指摘されています。しかし、業界の方々から話をお聞きすると、安価なペットフードを扱うために、^族舛文粁繊↓品質・安全性、H稜篶未箸い辰燭海箸魍諒櫃垢襪里呂なり難しいようです。すでにペットフードの「薄利多売」はビジネスとして成立しにくく、安価なフードは「売れば売るほど赤字が膨らむ」といった話も耳にします。ペットフード安全法の制定により、粗悪な原料を用いたペットフードがなくなるのは歓迎すべきことですが、飼い主の負担が増して捨て犬や捨て猫が増えるではないかという危惧もあります。


 ペットフードの仕事(研究)をするようになってから、ペットフードに関する相談をよく受けるようになりました。食品企業などの方から、ペットフード市場への新規参入に関して意見を求められることも結構あります。ペットフードの開発製造自体は、OEMなどでの対応も可能ですから、ペットフードを製品化するだけであれば、それほど参入ハードルは高くないのかもしれません。しかし、実際にそれなりの量を販売するとなると、解決困難な問題が大きく浮上してきます。量販店にはすでに膨大な数のペットフードが並び、新製品が出るたびに既存製品が棚から消え去っているはずです。新参メーカーの製品が棚を確保するのはおそらく非常にたいへんなことでしょう。私が聞いた話でも、販売方法の確保がネックとなって市場参入を断念したケースがいくつかありました。


 さて、東洋経済誌の特集で、ペットフード以外で気になったものに、「ペット関連資格」に関する記述がありました。私の所属する獣医学部動物資源科学科は、学部発足時には畜産学部畜産学科でした。家畜による食料生産と畜産物の利用を、教育研究の柱とする学科でしたが、動物に対する社会や学生諸君のニーズが多様化し、それに応える形で対象動物も拡大しました。牛・豚・鶏といった家畜は、今でも私たちの学科の教育研究対象の中心ですが、伴侶動物(愛玩動物)も新たな対象となっています。食べられてしまう動物たちと、こよなく愛される動物たちが教育研究の対象として共存することに、若干の違和感がないわけではありません。


 犬や猫といった愛玩動物も私たちの教育対象となって浮上してきた問題のひとつに、ペットにかかわる「資格」(下表参照)があります。ペット関連の専門学校では、資格取得を大きな宣伝材料にしてきましたが、大学ではこの種の資格はあまり重視されることはありませんでした。動物看護師などのペット関連資格は、専門学校の領域という認識がありました。しかし、2005年に日本獣医生命科学大学に獣医保健看護学科ができた頃から、動物看護師を目指して大学の動物系学科を受験する諸君が増えたようです。私たちの動物資源科学科では、動物看護師を養成するための特別なカリキュラムを用意していませんが、入学時に将来の進路として動物看護師を考えている学生さんが少なからずいます。


 上の表にあげたようなペット関連の資格は、いずれも民間資格です。ただ、動物看護師については、現在の各認定団体がバラバラな状況を改善し、国家資格に昇格させる方向での努力も始まっています。動物看護関連5団体では、まず同一の認定試験の実施を目指すようです。将来、動物看護師の国家資格化が実現することがあれば、私たちの学科も受験生の確保などの面から、対応を迫られる場面が訪れるのかもしれません。

 ペット関連の教育・人材育成「市場」は、現在約200億円と推定されています。この数字の中には、専門学校や資格認定団体に加えて大学も含まれています。動物系学科をもつ大学も、知らないうちにペット市場の構成員になりつつあるようです。


 ペットビジネス関連の書籍を、以下にあげておきますので、参考にしてください。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
168:「ワンプッシュ」と「ニャンプッシュ」(2014/07/10)
155:ペットフードと乳酸菌(2013/12/25)
154:ペットフードの書籍を監修(2013/12/10)
153:ネコにタウリン(2013/11/25)
152:ペットフードの歴史(2013/11/11)
136:「a-iペプチド」とキャットフード(2013/03/12)
83:「わんぶ煎餅」と「にゃんぶ煎餅」(2010/12/27)
81:犬は最良のパートナー?(2010/11/26)
64:動物資源科学科の農医連携教育(2010/03/10)
24:ペットフードと特許(2008/07/09)
21:産学官連携でペットフード開発(2008/05/26)
7:ペットフードの安全性確保を巡る情勢(2007/10/26)
4:「機能性ペットフード」の可能性(2007/09/07)
ペットフードのトピックス | 14:55 | 2010.06.11 Friday |