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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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昆虫を食べる

No.71


 「昆虫食」について、ときどき新聞や雑誌で記事を見かけます。先日も読売新聞(2010/6/5電子版)に掲載されていました。それによると、最近、昆虫食人気がジワリと増しているそうで、同好者が開催した「昆虫料理試食会」の様子が写真つきで紹介されていました。


 私はハチノコやイナゴの佃煮くらいしか食べたことがありませんが、昆虫の中には非常に美味しいものが多いという記述をよく目にするため、かなり関心をもっています。「味覚人飛行物体」の異名をもち、食に関する著作が多い小泉武夫先生は当然のように、豊富な昆虫食経験をお持ちで、『人間はこんなものを食べてきた』(日経ビジネス人文庫, ¥600)でも、その経験を披露されています。カブトムシの幼虫がたいへん美味で、大好物とのことです。


 小泉先生は、この本を書いた当時、東京農業大学に在職中で「食文化論」の講義をされていました。そのため、「昆虫食」についても、食文化における位置づけを交えて論じています。この本では、昆虫食が記述されているページ数はそれほど多くありませんが、南米ボリビアでのヒルの食べ方など面白い話が書かれています。森で捕まえてきたヒルを、夜に牛の背中にのせておくと、朝には血を吸って丸々とゴルフボールくらいに膨らんだヒルが、牛のまわりに落ちているそうです。これをボイルすると、ゆで卵のようになるなど、3種類の食べ方が紹介されています。この地では、貴重かつ良質なタンパク源として摂取されているとのことです。


 立教大学の野中健一教授は、地理学を専門とされていますが、昆虫食に関する著作が多い先生です。昨年の暮れに出版された『虫はごちそう!』(小峰書店, ¥1,470)は、写真やイラストの多い読みやすい本です。漢字にふりがなが振ってあるので、子供向きを意識した本かもしれませんが、大人が読んでも十分に楽しめます。字が少し大きめなのも助かります。この本は、昆虫食の入門書としてお勧めです。


 表紙の写真で、上機嫌なおじいさんが食べようとしているのは、カミキリムシの幼虫です。かつて燃料に薪が利用されていた時代には、木を割ったときに出てくるカミキリムシの幼虫を、山村ではよく食べていたそうです。おじいさんの表情が、その美味しさを物語っています。昆虫が食生活で非常に重要な位置にあるラオスでの話は、とくに興味深いものでした。あのカメムシまでも食べるそうですが、野中先生が実際に食べたところ、「意外なことに甘いような味が口の中に広がった。(中略)頭の中にいっぱいの花が咲いたような感じだった」そうです。何かを食べて、そんな感じを得たことがないので、一瞬私もカメムシを食べてみたくなりました。


 入門書をマスターしたら、同じく野中先生の『昆虫食先進国ニッポン』(亜紀書房, ¥1,680)を読まれてはいかがでしょうか。昆虫食を本格的に学ぶことができます。食文化から始まり、商品化に至るまで、広範に昆虫食が論じられています。


 もっと専門書に近い書籍として、『民族昆虫学』(東京大学出版会, ¥4,410)『虫を食べる文化誌』(創森社, ¥2,520)があります。私はパラパラとページをめくっただけに過ぎませんが、なかなか本格的(学術的)な記述がされているようでした。


 昆虫食について徹底的に知りたい方は、『昆虫食古今東西』(工業調査会, ¥2,415)『世界昆虫食大全』(八坂書房, ¥6,090)という事典的な書籍を手許に置かれるとよいでしょう。いずれも、東京農工大学と東京農業大学の教授を歴任された昆虫学の大家である三橋淳先生の著作です。とくに『世界昆虫食大全』はたいへんな労作で、全世界の昆虫食を網羅し、収録されている食用昆虫は1,900種以上です。この本の謝辞には、多くの出版社との交渉の末、ようやく八坂書房が出版を決断してくれた旨の記述がありました。貴重な原稿が埋もれずに出版されたことは、実に喜ばしいことです。


 実際に色々な昆虫を食べてみたいという方には、『虫の味』(八坂書房, ¥1,680)『楽しい昆虫料理』(ビジネス社, ¥1,680)の2冊が役立つでしょう。『楽しい昆虫料理』の方は、昆虫料理研究家として活躍されている内山昭一氏によるもので、昆虫料理の具体的レシピが多く掲載されています。即戦力間違いなしです。


 昆虫は種類にもよりますが、おおまかに乾物重量の50〜60%程度がタンパク質です。そのアミノ酸組成は食肉に近く、栄養学的に非常に良質なタンパク質と言えます。このため、将来の食料危機とからめて、昆虫の食料資源としての有望性についての記述もしばしば目にします。しかし、自然界の昆虫を採集するのはかなり手間がかかり、採集という方法では先進国の産業としては成り立ちにくそうです。食料生産のために昆虫を利用するには、家畜化して大量に効率よく飼育する方法の確立が必要なのでしょう。


 今回、昆虫食に関する書籍を探したところ、思っていた以上に多くのものが手に入りました。潜在的に昆虫食に興味をもつ方々が結構多いのか、熱心な研究者の存在によるものかはわかりませんが、冒頭の新聞記事にあるように徐々に昆虫食への関心が高まっているのかもしれません。私も、小泉武夫先生をはじめとする多くの方が、その美味しさを絶賛しているカブトムシの幼虫は、いつか食べてみたいと思っています。私たち日本人が昆虫をあまり食べないのは、衛生的な問題ではなく、主として食文化の問題です。日本人の多くが平気で食べるシャコやナマコなどの海産生物は、多くの欧米人にとっては気味の悪いものです。カブトムシの幼虫は理屈で考えると、不味いはずも不衛生のはずもありません。ただ、カブトムシの幼虫を食べた方々の記述を見ると、生育環境や調理方法によってずいぶん感想が異なっているので、美味しく食べるためにはある程度の条件が整っている必要があるようです。

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食品のトピックス | 11:45 | 2010.06.25 Friday |