2010.07.12 Monday
ロングセラー食品の秘密
No.72
ヒット食品を誕生させるのは、本当にたいへんなことだと思います。しかし、一方で、非常に長い間好調な売れ行きを見せている「ロングセラー」食品も存在します。ごく最近、『ロングセラー商品の舞台裏』(成美堂出版, ¥1,365)という本が出版されました。食品や家庭用品など38のロングセラー商品の生い立ちが紹介されています。
食品では、「三ツ矢サイダー」、「ヤクルト」、「カップヌードル」、「かっぱえびせん」、「のりたま」等々、どれも納得の18製品が取り上げられています。私がロングセラー食品として真っ先に頭に浮かぶのは、1971年に発売された日清食品の「カップヌードル」です。発売当時小学生だった私も、これには心を奪われました。給湯装置を備えた自動販売機の登場にも驚いたものでした。ちょうどマクドナルドが日本上陸をした頃で、日本人の食生活が大きく変わった時期だったかもしれません。
今年は、日清食品の創業者である安藤百福氏(故人)の生誕100年にあたり、安藤氏の開発したチキンラーメンやカップヌードルの誕生秘話が、マスコミでしばしば紹介されました。カップヌードルは、多くの着想や技術が込められた食品です。たとえば、具材(エビなど)の調製には、食品で初めてフリーズドライ製法(凍結乾燥法)が採用されました。
現在、スーパーの店頭には、カップヌードルの主なラインナップとして写真にあるような製品が並べられています。しかし、これまでに発売され、すでに製造販売が終了したものも数多くあります。また、カップヌードルの関連製品として「スープヌードル」などもあります。私が注目したカップヌードル関連製品に、「スポーツヌードル」がありました。2006年からスポーツ用品店など「スポーツルート」限定販売の製品として登場しました。
上のパンフレットにあるように、「燃焼系」(左)と「回復系」(右)の2種類があり、前者にはL-カルニチンを、後者には大豆ペプチドを練り込んだ麺が使用されていました。L-カルニチンは、とくに羊肉や牛肉に多く含まれている成分で、生体内で脂肪の燃焼に関わっている物質です。一方、大豆ペプチドは、筋肉疲労の抑制・回復などに役立つことが報告されています。カルニチンやペプチドは、私が関心をもっていた食品成分でしたので、これらを利用した食品の行方を注目していました。しかし、残念ながらスポーツヌードルは、すでに姿を消してしまったようです。カップヌードル関連というブランド力をもってしても成功できなかったのですから、機能性食品の難しさを感じさせられます。
最近の食品の中で、ロングセラーが確実視されているものとして、サントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」があります。『なぜザ・プレミアム・モルツはこんなに売れるのか?』(小学館, ¥1,575)を読むと、このビールのヒットまでの長い道のりがよくわかります。
市場参入してから45年間赤字続きだったサントリーのビール事業を、このビールの誕生が状況を一変させたのですから、たいしたものです。ザ・プレミアム・モルツの生みの親である山本隆三氏の開発活動を中心に、営業や生産現場なども含めて丁寧に取材して書かれた本書は、食品開発に関わる方だけでなくとも一読に値するものです。山本氏の「世界最高峰のビールをつくる」という熱い思いと「100年後も売れているだろう」と言い切る自負が伝わってきます。カップヌードルもザ・プレミアム・モルツも単なるヒット食品にとどまらずロングセラー食品となりうる多くのファクターを備えているようです。
ビールつながりで、もう1冊『ヒットを生み出す最強チーム術 キリンビール・マーケティング部の挑戦』(平凡社新書, ¥735)をあげておきます。最近のヒット食品である「キリンフリー」などの開発秘話が紹介されています。なお、キリンフリーは、平成21年度の「食品ヒット大賞」(日本食糧新聞社制定)を受賞しています。
『日経トレンディ』(日経BP社)に連載された「ヒットの奇跡」という記事(2006年9月号〜2009年7月号)が、文庫本2冊にまとめられています。『ヒットの法則』(日経ビジネス文庫, ¥730)と『ヒットの法則2』(日経ビジネス文庫, ¥730)です。「伊右衛門」、「黒烏龍茶」、「黄金比率プリン」、「植物性乳酸菌ラブレ」などが紹介されていますが、食品以外の製品も多いので、結構楽しめる本だと思います。
活字が嫌いな方には、『マンガで読むロングセラー商品誕生物語』(PHP研究所, ¥500)がよいかもしれません。紹介されている19製品中、食品以外のものは「セロテープ」と「スーパーカブ」だけですから、「ロングセラー食品」の本といってもよいくらいです。取り上げれらている製品は、すべて表紙に絵が載っていますので、ご覧ください。
『超ロングセラー大図鑑 花王石鹸からカップヌードルまで』(竹内書店新社, ¥1,575)は、一番新しい掲載商品が1971年に登場したカップヌードルですので、他の書籍とはちょっと性格が異なるかもしれません。ただ、45の超ロングセラー商品に関する懐かしい話は、読みごたえがあります。ノスタルジックな表紙だけでも、この本の魅力が伝わると思います。
今回紹介したような書籍を読むことが、ヒット食品やロングセラー食品の誕生にどの程度役立つものかは、私にもよくわかりません。ただ、開発にはかなりの決意が必要であることはうかがえるのではないでしょうか。また、今の時代、ヒット製品を誕生させるためには、「八百屋で魚を売る」柔軟な発想も必要だと言われています。ハードルは、かなり高そうです。
食品のトピックス | 14:42 | 2010.07.12 Monday |