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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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体に良い食品なんてない!

No.77


 今回のタイトル「体に良い食品なんてない!」は、先日行われた北里大学公開講座のときのものです。

 私は生活に身近な食品関係を専門領域にしていることもあって、この種の講座で話をする機会が割合と多くあります。受講者の皆さんはいつも熱心に聴いてくださり、普段の講義では学生諸君には絶対に受けないであろうジョークに対してもたいへん好意的な反応をしていただけます。あまりの反応のよさに、講演名人になった気持ちにさせてもらえます。北里大学公開講座は、1回の講義時間が3時間とちょっと長目ですが、努力は十分に報われます。


 3時間を講義だけで進めると、さすがに皆さん疲れてしまいますので、途中に気分転換を兼ねて実習をはさみました。今回は、講義のタイトルと直接関係しませんが、「手形培地による細菌検査」を行いました。


 さて、本題の「体に良い食品なんてない!」という話ですが、公開講座の案内チラシの要旨には、「『体に良い食品』が世の中に溢れています。マスコミでは、食品を『体に良い』ものと、『体に悪いもの』にクリアに分けたがります。しかし、話はそれほど単純ではありません。その食品の摂取の仕方(量など)や、皆さん自身の健康状態によっても大きく影響を受けます。食品と健康について、皆さんと一緒に考えます。」と書きました。ただ、要旨を提出した時点(2か月前)では、講義内容の組み立てはほとんどできていませんでした。

 獣医学部に所属する関係もあり、私の専門とする食品は、乳・肉・卵といった畜産食品です。畜産食品は、健康との関係でなかなか微妙な存在で、「体に良い」食品としても、「体に悪い」としても、マスコミ等では取り上げられてきました。実際のところは、「良くも悪くもある」といった感じなのですが、そういう曖昧な取り上げ方は好まれないようです。私自身も、かなり前に行われた公開講座では、「動物性食品との付き合い方を考える 〜乳・肉・卵、もっと食べても大丈夫〜」というタイトルで、体に良い食品として畜産食品を取り上げたことがありました。


 ところで、以前もこのトピックス欄で少し触れましたが、「牛乳有害論」というのがしばしば注目されます。牛乳は良質なタンパク質を多く含むなど、栄養価の高い優れた食品であることは事実です。ただ、現在の日本人の多くは栄養状態がきわめて良いですから、牛乳の食品としての意義も昭和20〜30年代とは当然異なっています。栄養豊かな食品の選択幅が広がっていることから、牛乳嫌いの方までが無理して飲む必要はないと、私は思っています。ただ、「とにかく牛乳は人間にとって有害な食品だから飲んではいけない」という主張には疑問を感じます。ごく最近も、下のような書籍が出版されていますが、読み物としては面白いとも言えますが、牛乳という食品を客観的にはとらえていません。


 似たような書籍はこれまでにずいぶんと出版されています。下の書籍は、世界的な「大ベストセラー」とのことです。少し前に、学部学生の講義のときに、「牛乳を飲むと乳がんになるのですか?」という質問を受けたのがきっかけで、私もこの本を読みました。なかなかの大著で一理ありそうな記述も見られますが、自身の乳がん罹患の経験を軸とした展開にはやはり科学的根拠の乏しさが感じられました。米国酪農科学会から抗議を受けたのも当然のことでしょう。


 科学的におかしな説に対しては、研究者や業界団体などが反論していますが、インパクトに欠けるのが実情です。たとえば、社団法人日本酪農乳業協会社団法人中央酪農会議といった関係団体が、ホームページや市民講座により牛乳に関する情報発信に努めていますが、なかなか多くの消費者にはメッセージが届かないのが実情ではないでしょうか。肉や卵でも似たような状況があります。


 最近、牛乳の摂取量が多い人にはメタボリック症候群が少ないというニュースがありました。また、コレステロール値は高い方が長生きするという話も、注目されました。バターよりヘルシーと言われていたマーガリンも、トランス脂肪酸の存在が危惧されるようになっています。あれほど売れていた花王のエコナが製造・販売中止になるなど、食と健康の常識や定説が砕かれることがしばしばあります。

 今回の公開講座は、ちょっと歯切れ悪く、とりとめのない雑談のような部分も多かったのですが、講義後に書いていただいたアンケート(下写真)を拝見する限りでは、受講者の皆さんに満足していただけたようで、ひとまずホッとしました。即戦力になるような話ではなかったかもしれませんが、食生活と健康について考え直すきっかけとなったならば、幸いです。もう少し情報の収集と整理をして、今回の講義タイトルで啓蒙書を書けたらとも、ひそかに考えています。


この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
181:牛乳の気になる噂(2015/01/26)
103:グルコサミン・ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸(2011/10/25)
99:ポテトチップスとトランス脂肪酸(2011/08/26)
97:牛乳美人(2011/07/25)
90:『ミルク世紀』(2011/04/11)
45:想いやり生乳と加熱殺菌乳(2009/05/25)
28:農医連携シンポジウム(2008/09/10)
27:機能性食品の可能性と限界(2008/08/25)
11:健康食品・機能性食品・特定保健用食品(2007/12/25)
食品のトピックス | 15:56 | 2010.09.27 Monday |