2010.10.12 Tuesday
もも肉でもロース
No.78
先日の新聞記事(2010/10/8日本経済新聞など)に、消費者庁が全国焼肉協会(加盟約1400店)に対して、不適切な牛肉の表示をする業者に改善を求める要請をしたというものがありました。これまで多くの焼肉店では、牛肉の「もも肉」や「ランプ」のような部位も、「ロース」と表示することを慣行としてきましたが、この状況は問題があると消費者庁は判断しました。
下の写真は、近所のスーパーで購入した「国産牛(十和田黒牛)もも肉」です。もも肉はロースに比べると霜降り(脂肪交雑)の量が少ない赤身肉と言われていますが、和牛肉などではかなり霜降りの多いものも多く、正直なところ、私もロースと区別が付かない場合があります。なお、「国産牛」や「和牛」については、以前のトピックス(No.74「口蹄疫と和牛肉」)をご参照ください。
ロースでも、乳牛(ホルスタイン種)や外国産牛のものは、下の写真の「米国産牛肩ロース」のように霜降りが少なくそれほどロースらしくありません。
JAS法では、小売店において牛肉の「基準に従った部位の表示」を義務づけています。これにしたがって、スーパーなどでは13種類の部分肉名が表示されています。本来、ロースは背肉を指していて、農林水産省が小売店向けに定めている基準では、ロースと表示できる部位は、「肩ロース」、「リブロース」、「サーロイン」の3部位だけとなっています。
しかし、JAS法による表示規制はスーパーなどの小売店には適用されますが、焼肉店などの外食店は対象外となっています。そのため、焼肉店で「もも肉」を「ロース」と表示するといったメニュー名と牛肉の部位の不一致は、JAS法には抵触しません。
新聞によると、本当のロースをメニューでは「上ロース」にして、もも肉などの赤身肉を「ロース」としている焼肉店が多いとのことです。ところで、焼肉店で人気のある牛肉メニューに、「カルビ」があります(下の写真は「青森産黒毛和種牛上カルビ」)。
カルビは、韓国語で「あばら(肋骨)」を意味しており、あばら骨の間の肉あるいはバラ肉を指しています。しかし、カルビとして使われている牛肉の部位は、焼肉店によってかなり異なります。牛の後ろ足に近い「ともバラ」という部位がよく使われているようですが、「外バラ」、「三角バラ」、「肩ロース」なども使われています。「カルビ」という表示には基準や規制はありませんので、お店の判断に委ねられています。焼肉店での「ロース」や「カルビ」といった表示は「肉の部位」ではなく、「料理(メニュー)名」と説明した方がすっきりするかもしれません。
食肉の表示はかなり複雑で、たとえば「ヒレ」という部位は、料理名では「テンダーロイン」や「シャトーブリアン」と表示されることもあります。これらは、お店や料理のイメージで使い分けているのでしょう。また、「ハム」は、本来「もも(大腿)」を意味する言葉で、ヨーロッパの大部分のハムはもも肉を原料としています。日本では、「ロースハム」の人気が高いのですが、これは直訳すると「背もも肉」となってしまいます。
今回の消費者庁による焼肉店における牛肉表示の改善要請は、景品表示法違反(優良誤認)にあたるという判断です。しかし、この改善要請が徹底されないと、これまでの慣行どおりのメニュー表示を続ける店と、小売店と一致させた表示をする店が出て、より混乱を深める懸念もあります。
食品のトピックス | 14:38 | 2010.10.12 Tuesday |