2011.01.25 Tuesday
プリンの謎
No.85
スーパーやコンビニに行くと、ヨーグルトの棚のすぐ横にプリンが並んでいます。ヨーグルトほどではありませんが、最近はプリンの種類がかなり増えています。しかし、あまりプリンらしくないものも、プリンと名乗っています。事典などを見ると、プリンは「卵・牛乳・砂糖などを蒸し焼きにして柔らかく固めた洋菓子」とありますが、実際にはこれにあてはまらないプリンの方が多いようです。
知名度の高いプリンと言えば、なんといってもグリコの「プッチンプリン」ではないでしょうか。パッケージには、「50億個突破!」とか「累計出荷数を横に並べると約44万km(地球11周分)」などと誇らしげに書かれています。この製品の発売は1972年ですから、私が小学校6年のときでした。初めてTVCMを見たときの衝撃は今も鮮明です。なお、この前年の1971年には、日本で最初の量産型のカップ入りプリン「森永プリン」が発売されています。
この種のなめらかな食感のプリンの登場には、1964年にハウス食品が発売した「プリンミクス」の影響が大きいと言われています。この製品の登場までは、日本でもプリンと言えばカスタード・プリンを指していました。カスタード・プリンは加熱すると凝固する卵タンパク質の性質を利用しており、冒頭にあげたプリンの説明に該当するものです。プリンミクスなどのインスタント・プリンでは、ゼラチンや寒天などの凝固剤を使っているので、粉末を溶かした後は冷やすだけです。オーブンが普及していなかった当時の日本では、これは重要なことだったようです。インスタント・プリンの食感が日本のプリンの特徴となり、「プッチンプリン」の大ヒットがその流れを決定付けました。
ところで、プリンミクスのパッケージには「卵原料不使用」と書かれています。ゼラチンなどの凝固剤を使えばプリンは固まりますが、卵が入っていなくてもプリンと言えるのでしょうか。卵をまったく使用していないとなると、プリンの風味を特徴付けるものがよくわかりませんが、フルーツプリンの類は卵を使っていないものが多いようです。
一方で、ちょっと変わったプリンとして、卵だけを原料としているプリンがあります。下の写真の「たまごまるごとプリン」です。鶏卵を割らずに中身を攪拌し、殻付きのまま低温加熱によって凝固させたもので、まさに卵100%のプリンです。添付されているカラメルソースをかけて食べると、確かにプリンの味がします。
卵無添加のプリンと卵100%のプリンがあるのは奇妙な感じがしますが、プリンの定義は法律にはありません。ババロアやムースのようなものもプリンと称して販売されていますし、杏仁豆腐を牛乳プリンと表示しても法律上の問題はありません。ただ、法律で厳密に定義されている食品も多く、たとえばマヨネーズはJAS法で原料等が定められており、当てはまらない製品は「マヨネーズタイプ」などと表示しなければなりません。ハム・ソーセージなどの食肉製品や発酵乳などの乳製品も法律で定義されています。(下の写真は、本文とは関係ありませんが「プリンパン」です。)
卵の入っていないプリンもちょっと抵抗がありますが、下の写真の製品のように、もっとプリンから遠い感じのものもたくさんあります。パッケージには、「チーズ」、「ヨーグルト」、「ティラミス」、「プラリネ」といった単語も書かれており、プリンと呼ぶ必然性はほとんどありません。ただ、国民的スイーツとも言えるプリンという名前を使った方が、製品を販売しやすいという事情もあるようです。プリンと名付ければ、プリンの棚に配架してもらえます。
一方、「焼きプリン」と表示されている製品は一見本格的なプリンのように見えますが、原料にゼラチンなどの凝固剤を使用しているものも多いので、「焼きプリン」と言っても表面に焦げ目を付けているだけの製品もあるのかもしれません。
森永乳業は、1971年の「森永プリン」以降も熱心な新製品開発を行ってきたメーカーです。「黄金比率プリン」は、2007年に発売されたヒット製品です。膨大な種類の全国各地のプリンの中から選び出した6種類のプリンを「科学的」に徹底分析して開発したとのことです。製品名となっている「黄金比率」は、主原料の卵黄と生クリームの配合比率のことです。発売前のモニター調査では、黄金比率の配合で調製したプリンを実に96%の人が「おいしい」と答えたそうです。
最近では、「理想のプリン」という製品が評判になりました。雑誌『DIME』が運営するコミュニティ「男子スイーツ部」がたどり着いた王道の味のプリンだそうです。詳しくは、ホームページをご覧ください。男子スイーツ部の部員募集も行っているようです。
森永乳業の「チャイプリン」はなかなか魅力的なデザインのパッケージで、以前紹介した「カレーヨーグルト」を思い出させました。森永乳業には、今後も挑戦的な製品の開発を期待しています。
ところで、プリンには「機能性食品」と呼べるような製品はあまりないようです。過去には、オリゴ糖を添加したプリンが特定保健用食品の許可を得たことがありましたが、現在では目にすることはありません。そんな中、スーパーの店頭で唯一見つけたのが、下の写真の「おとなのプリン」です。卵黄を使用していないプリンで、コレステロールを含まないいわゆる「ゼロ食品」です。今後は、この種の健康を考えた「機能性プリン」も増えていくのかもしれません。
大手メーカーの作る量産品以外にも多くのプリンが販売されており、本格的なものも多いようです。きわめて高級志向の強いこだわりプリンも結構あります。下の写真にある「極」という製品は、吟味した材料を使っているだけでなく、「美濃焼」の器にプリンが入っています。右側の「おみたまプリン」も、厳選素材を使用したこだわりのプリンとしてマスコミで紹介されているものです。初生卵を使用し陶器のカップと桐箱に入った「最高級おみたまプリン」という信じられないような限定製品もあります。こられのプリンの最大の特徴は、そのお値段かもしれません。
プリンはプリンミクスなどを使ったインスタント・プリンでなくても、家庭で割合と簡単に作れるお菓子です。下のような料理本を見ると、ずいぶんいろいろなプリンが載っています。知恵を絞ってオリジナルプリンを考案してみるのも楽しいかもしれません。
食品のトピックス | 16:10 | 2011.01.25 Tuesday |