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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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食品と生体におけるメイラード反応

No.93


 食品中で起こる重要な化学反応に、メイラード反応があります。 この欄でも、「ホットケーキとメイラード反応」「コラーゲンとメイラード反応」という話を掲載しました。 メイラード反応は、約100年前の1912年にフランスのL.C.Maillard(下写真)が発見しました。

 日本では「メイラード」と表記・発音する場合が多いのですが、海外ではフランス語読みの「マイヤール」と発音することが多いようです。メイラード反応は、アミノ酸(アミノ基)と糖質(カルボニル基)が加熱されたときに、比較的容易に起こります。アミノ基とカルボニル基が関与することから、アミノ・カルボニル反応とも呼ばれています。


 私たちが日常摂取している食品中でも、メイラード反応はごく普通に起こっています。目に見える現象として、加熱食品の褐色化があります。食品の褐変現象には、「酵素的」なものと「非酵素的」なものがありますが、メイラード反応は「非酵素的」褐変現象の主役です。なお、食品の「酵素的」褐変現象の例としては、リンゴなどの果実を剥いた際の変色があります。

 下の写真の書籍は、昨年出版されたメイラード反応に関する書籍 “The Maillard Reaction: Interface between Aging, Nutrition and Metabolism” です。 一昨年にオーストラリアで開催された国際シンポジウムの内容がまとめられています。 表紙には、メイラード反応による褐変化が起きた食品の写真が載っています。 パン、ビール、ステーキ肉などの食欲をそそる色調は、いずれも主にメイラード反応によるものです。 日本の伝統的な食品である味噌や醤油の色も、実はこの反応によるものです。

 ところで、Maillard博士は早い時期から、「土壌の腐植物質形成」、「加熱食品の褐変」、「生体の加齢」といった現象にメイラード反応が深く関与していることを予見していました。その後、彼の考えていたとおり、メイラード反応は、土壌、食品、生体といった広い範囲で重要な役割を演じる化学反応であることが明らかにされました。

 食品科学や食品産業の分野では、メイラード反応は色調の変化や香気成分の生成に関与し、食品の見た目や風味を改善する好ましい反応と見なす場合が多くあります。また、抗酸化成分の生成といった点から、食品に保健的機能を付与する現象ととらえられることもあります。私たちの研究室でも、コラーゲン分解物からのメイラード反応生成物に、抗酸化活性や血圧降下作用があることを見い出しています。


 一方、医学領域では、メイラード反応は生体内で起こる望ましくない化学反応として考えられる場合が多いようです。糖尿病患者における褐色斑の形成、白内障の発症、血管組織の劣化などは、メイラード反応によるタンパク質の変性(糖化)に起因すると言われています。また、動脈硬化性病変やアルツハイマー病といった病態を持っている場合、体内におけるメイラード反応生成物の蓄積が進んでいます。生体内のメイラード反応と疾病発症との因果関係はなお明らかにされていない部分が多いのですが、糖尿病や老化の危険因子と言えそうです。

 このようなことを背景とし、抗メイラード反応作用(メイラード反応阻害効果)を有する物質の検索も行われてきました。たとえば、ハーブのひとつであるカモミール中に存在するカマメロサイド(下図)がメイラード反応を阻害することから、アンチエイジング成分として研究されています。


 生体内で起こるメイラード反応が疾病などに関連する好ましくない現象だとすると、メイラード反応生成物を含む食品の摂取もよくないことだと思われる方もいるかもしれません。しかし、幸いにしてメイラード反応生成物の経口摂取には、それほど悪いことはなさそうだと考えられています。私たちの周りにあるメイラード反応により褐色を呈している大部分の食品は、安心して食べることができます。


 今回、メイラード反応という少し親しみにくい話題を取り上げました。あまり難解なことには触れないようにしましたが、ちょっとわかりにくい内容だったかもしれません。うまく説明できなかったのは私の力量不足もありますが、十分に解明されていない現象であるということもあります。メイラード反応については膨大な研究が行われてきましたが、その一方できわめて複雑な反応であることから、未解明の部分が多い分野でもあります。メイラード反応の解明状況を、「工事中の迷宮」と表現している研究者もいます。

 私たちの研究室では、食品やペットフードという観点からメイラード反応に注目して研究を進めています。研究成果を生かすことにより、「美味しくて体に良い」食品やペットフードの誕生につなげることを目指しています。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
223:生薬「阿膠」とメイラード反応(2016/10/25)
191:メイラード反応と特許(2015/06/25)
45:想いやり生乳と加熱殺菌乳(2009/05/25)
36:コラーゲンとメイラード反応(2009/01/13)
32:ホットケーキとメイラード反応(2008/11/10)
10:ペプチドは魅力的なペットフード素材(2007/12/10)
食品のトピックス | 14:46 | 2011.05.25 Wednesday |