<< December 2017 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

<< ビフィズス菌はデリケート | main | 工場見学本の出版ラッシュ >>

ヘビ毒ペプチドでスキンケア!?

No.95


 先日、八戸市にある量販店(ドン・キホーテ)の店頭で、「ヘビ毒ペプチド!?」という表示があるのを見つけました。私はペプチドの研究を行っているので、「ペプチド」と書かれているものには敏感に反応します。


 最初はどういう製品なのかわからなかったのですが、どうやらヘビ毒のペプチドを利用した化粧品(スキンケアクリーム)のようでした。ヘビ毒に様々なペプチドが含まれているのは、ペプチド研究者にとってはよく知られている話です。ヘビ毒ペプチドの構造を基に設計された「カプトプリル」という物質は、血圧降下薬として利用されています。また、数年前にはガラガラヘビの毒からモルヒネの数百倍の鎮痛作用を示すペプチドも見つかっています。


 ただ、ヘビ毒のペプチドが化粧品に使用されているという話は、私も初耳だったため、たいへん驚きました。後で調べてみると、下の写真の製品に使用されているのは、ヘビ毒そのものではなく、ヘビ(テンプルバイパー)がもっている毒のペプチドをもとに設計された「シンエイク」という合成ペプチド誘導体でした。ヘビ毒が直接製品に入っているわけではありません。宣伝で「ヘビ毒ペプチド!?」というふうに末尾に「?」が付いていたのは、そういう理由なのでしょう。なお、クリームの入ったビンはヘビっぽい感じの緑色ですが、中身のクリームは白色でした。


 下に示したのはシンエイクという物質の分子構造モデルですが、「ジ酢酸ジペプチドジアミノブチロイルベンジルアミド」と表記される場合が多いようです。「筋収縮抑制作用をもち、表情シワをケアする」ペプチド素材として、化粧品にはそれなりに利用されています。「ヘビ毒」という表示はしていないものの、大手メーカーの製品にもジ酢酸ジペプチドジアミノブチロイルベンジルアミドを有効成分として添加しているものが見つかります。


 ところで、「ボトックス」と呼ばれる物質は、食中毒の原因となるボツリヌス菌が産生する毒素(ボツリヌス毒素)で、筋弛緩作用を応用してシワ取りなどの目的で美容外科領域でかなり利用されているものです。シンエイクを使った製品の説明をホームページで見ると、「塗るボトックス」といった表現があります。皮膚に塗るだけで、ボトックス注射並みの効果が期待できるのかは私にもわかりませんが、女性にとっては気になる製品でしょう。


 ヘビに限らず多くの生物が様々な毒をもっており、毒に関する研究も多く行われてきました。毒の本体解明といった基礎的なものから、人間を毒から守るための治療法の開発といったことまで、広範な研究がされています。また、毒物質の性質を上手に利用した医薬品や、毒物質の化学構造を基にして合成した医薬品も少なからず誕生しています。なかなか魅力的な物質である毒ですが、関心のある方のために「猛毒動物最恐50」「毒のいきもの」という書籍をあげておきます。ちょっと物騒な書名ですが、いずれも一般向けの読みやすくお値段もお手頃な書籍です。


 また、ヘビそのものが好きだという方のために、「ヘビのひみつ」という書籍をあげておきます。子供向けの写真絵本風の本ですが、ネイチャー・フォトグラファーとして有名な内山りゅう氏による写真はなかなか見事です。ヘビ嫌いの方も、その美しい姿に魅了されてヘビ好きになるかもしれません。


この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
186:機能性ペプチドの書籍を監修(2015/04/10)
115:カタツムリ・ナマコ・キャビア(2012/04/25)
53:ペプチドと化粧品(2009/09/28)
51:ペプチドの書籍を監修(2009/08/25)
25:アスタキサンチンと化粧品(2008/07/25)
ペプチドのトピックス | 10:26 | 2011.06.24 Friday |