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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ポテトチップスとトランス脂肪酸

No.99


 ここ数年、新聞などで「トランス脂肪酸」という言葉をよく目にします。なんとなく体によくない食品成分だという認識をお持ちの方も多いことでしょう。下の写真は、サッポロファインフーズのポテトチップス「ポテかるっ」で、今年6月から「トランス脂肪酸フリー」と明示したパッケージが登場しています。


 上の写真ではわかりにくいですが、パッケージ左下に赤いマークがあります。また、パッケージ裏面の栄養成分表示にも、「飽和脂肪酸」と「コレステロール」の間に「トランス脂肪酸 0g 」と記載されています。以前解説した「ゼロ食品」の範疇に入る製品と言ってもよいでしょう。

 さて、この「トランス脂肪酸」ですが、どのような物質なのでしょうか。トランス脂肪酸は食品の風味や食感を高める利点がある一方で、大量に摂取すると心臓疾患や動脈硬化につながると言われています。トランス脂肪酸を多く含む食品として、マーガリンがよくあげられます。ただ、市販のマーガリンの分析値を見ると、製品によってトランス脂肪酸の含量がかなり異なっています。したがって、下の写真にあるような植物油を主原料とするマーガリンやスプレッド類が、一概にトランス脂肪酸含量の多い食品とは言えないかもしれません。


 難しい話になってしまいますが、トランス脂肪酸という物質についてもう少しだけ説明しておきます。前回の「馬肉の魅力」の中で、「飽和脂肪酸」と「不飽和脂肪酸」について説明しましたが、トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸の一種です。融点の低い不飽和脂肪酸の多い植物油は液体ですので、そのままでは固体のマーガリンを作ることができません。トランス脂肪酸は水素の付加により調製される「部分硬化油」の製造過程で発生し、この部分硬化油を原料とするマーガリンやショートニングに多く含まれることになります(下の分子モデルは、トランス脂肪酸のひとつ「エライジン酸」)。


 WHO/FAOから2003年に出されたレポートは、トランス脂肪酸摂取と心臓疾患リスクとの関連が強いことを指摘し、摂取量を全カロリーの1%未満にするよう勧告しました。これを受けて、食品におけるトランス脂肪酸を規制する国が増えることになりました。デンマークでは2004年に基準値(食品中に2%以下)が定められ、カナダ(2005年)、米国(2006年)、韓国(2007年)、台湾(2008年)といった国々で表示が義務付けられるようになりました。マーガリンやショートニングのようにトランス脂肪酸が多く含まれると言われている食品でも、海外では“Trans Fat Free”の製品がかなり登場しています。


 日本でも、オーガニック食品を扱う食料品店やネットショップでは、下の写真にあるような「トランスファットフリー」と表示した製品が手に入ります。左はショートニングで、右はオリーブオイルスプレッドです。この種の製品は、まだ国内で製造されているものは少なく、輸入品が主体となっているようです。


 今年(2011/2/21)、日本では消費者庁が「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」を公表しました。製品にトランス脂肪酸を「無」、「ゼロ」、「フリー」と表示する場合は、食品100グラム当たり0.3グラム未満であると同時に、同様の健康被害をもたらす恐れが指摘される飽和脂肪酸も熱量の10%未満にするなどの条件があげられました。しかし、当初、トランス脂肪酸の表示義務化は今夏に向けて作業が行われていましたが、最終的な判断は先送りとなっています。

 一方、業界での対応は着々と進められており、セブン&アイ・ホールディングスは、トランス脂肪酸を含む食品の販売抑制に取り組む方針を示し、トランス脂肪酸含量の少ない独自ブランド商品づくりも進めていくそうです。また、ダスキンはすでに「ミスタードーナツ」の製造にトランス脂肪酸含量の少ない油を用いています。ただ、冒頭で紹介したポテトチップスのようなトランス脂肪酸フリー製品が登場すると、もともとの製品(たとえばポテトチップス)にはトランス脂肪酸がたくさん入っていることをあえて言っていることにもなります。このあたりは、消費者に対して上手に説明する必要がある点でしょう。

 以前は、動物性脂肪のバターよりも植物性油脂のマーガリンの方が健康によいとよく言われていました。トランス脂肪酸の話は、バターを控えてマーガリンを食べてきた方にとっては当惑するものです。また、トランス脂肪酸の中には、牛乳や牛肉中に多く含まれている「共役リノール酸」のように有用なものもあり、その全体像はかなり複雑です。コレステロールなど脂質の摂取と健康については、定説が覆されたり異なる説が存在するなど、消費者が判断に迷うことがよくあります。学会や行政が信頼できる情報や指針を提示する必要があります。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
118:アルガトリウムとオメガ3脂肪酸(2012/06/11)
98:馬肉の魅力(2011/08/10)
77:体に良い食品なんてない!(2010/09/27)
58:「消費者庁許可」特定保健用食品の行方(2009/12/11)
49:ゼロ飲料・ゼロ食品(2009/07/27)
食品のトピックス | 09:52 | 2011.08.26 Friday |