<< March 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

<< 炭酸飲料ブーム | main | 缶詰の日 >>

山羊乳の魅力

No.101


 先月、「馬肉の魅力」を紹介しましたが、今回は「山羊乳の魅力」です。世界で生産される家畜の乳の大部分は牛乳で、山羊乳は2%程度に過ぎません。日本では、第二次世界大戦後に乳用山羊の飼育頭数が増え、昭和32年(1957年)には約56万頭になりました。しかし、その後は急減して現在は1万頭に満たない飼育頭数となっています。下の写真は、北里大学獣医学部の子山羊たちです。


 乳用山羊の飼育頭数が少ないため、日本での山羊乳の生産量はわずかなものですが、一部では根強い人気があります。観光地などで見かけることがありますし、インターネットで入手できるものもあります。下の写真は、北海道中標津町にある乾牧場の「しれとこヤギミルク」です。


 山羊乳には牛乳にはない魅力があると考えられており、ときどき私も問い合わせを受けます。とくにアレルギー性についてのことが多いのですが、山羊乳が牛乳よりもアレルギー性が低いことは間違いないようです。牛乳アレルギーの原因タンパク質のひとつである「αS1-カゼイン」が、ヒトの母乳や山羊乳には存在しません。ただ、「β-ラクトグロブリン」のようなアレルゲン性の強いタンパク質が山羊乳中にも存在するため、アレルギーの心配がまったくないというわけではありません。


 また、よく「山羊乳はヒトの母乳に近い」という記述を目にします。αS1-カゼインがない点などヒトの母乳との共通点もありますが、一般成分(タンパク質、脂質、糖質など)の含量はむしろ牛乳に近いものです。しかし、鉄の吸収効率を高める、オリゴ糖に富み腸内細菌叢を改善する、アラキドン酸が多く脂肪酸組成に優れる、タウリンが牛乳の20倍程度含まれる、脂肪球が小さく消化しやすい、血清コレステロール値改善作用がある、心疾患予防効果がある等の報告も見られます。十分な検証がされていないものもありますが、牛乳にはない魅力があるのは確かなようです。現在、山羊乳から調製した乳児用粉乳も入手することができます。下の写真の製品は、ニュージーランド産の山羊乳を原料としたものです。


 近年、犬や猫といったペットの世界でも、アレルギーの問題が深刻になっていることなどから、ペット用の山羊乳製品も見かけます。山羊乳には、猫の必須アミノ酸であるタウリンも多く含まれています。下の写真の粉末製品は少量包装品で、ペットフードに振りかけて使うことを考えたもののようです。


 加工原料として見た場合、山羊乳は脂肪球が小さいためクリームを得るのが困難で、バター製造には不向きです。しかし、ヨーロッパでは、チーズやヨーグルトの原料としてかなり山羊乳が利用されています。とくに、フランス、イタリア、スペインといった国では山羊乳チーズの生産が盛んで、日本でも輸入品が手に入ります。下の写真は、スペイン産の山羊乳チーズです。赤ワインでウォッシュしたシェーブルチーズで、日本でも人気がありますが、以前研究室で食べてもらったところ、ちょっと苦手という学生諸君が多かったようでした。


 山羊乳チーズに限らず、山羊乳や山羊乳製品を普及させる際のネックとして、その風味があります。初めて山羊乳を飲む方は、たいていその独特の風味に少し顔をしかめます。山羊乳には、脂質中の短中鎖脂肪酸が牛乳よりも多く含まれ、とくにカプリン酸が多いことが風味に影響しているようです。ただ、餌などの飼育条件によっては、かなりマイルドな風味の山羊乳も生産できるという話もあります。


 山羊乳の食品以外の用途として、石鹸があります。「山羊乳石鹸」とか「ゴートミルク石鹸」と書かれたパッケージを見かけます。パッケージや広告を見ると、「欧米では古くからスキンケアに利用されていた」とか「皮膚にやさしい成分」などとありますが、詳しいことは私にもわかりません。


 山羊は、愛らしくおとなしいため、人気のある動物です。山羊を飼ってみたいと考えている方も多いと聞きます。山羊に関する本は意外と多く、下にあげたようなものが手に入ります。『ヤギ 取り入れ方と飼い方 乳肉毛皮の利用と除草の効果』(農山漁村文化協会, ¥1500, 2000/1)は、専門家により書かれたものですが、わかりやすい記述ですので山羊入門書として好適です。『ヤギ飼いになる 飼い方から実例、グッズ、ミルクレシピ』(誠文堂新光社, ¥1470, 2009/7)は、写真が多く楽しめる内容です。「ヤギ飼いさんの暮らし」が紹介されているので、山羊を飼ってみようと思っている方にはお勧めの一冊です。「全国山羊ネットワーク」のホームページにも、山羊に関する幅広い情報が掲載されています。



この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
286:乳児用液体ミルク(2019/06/10)
266:America's Dairyland(2018/08/10)
263:羊肉の魅力(2018/06/25)
230:チーズのような豆腐(2017/02/10)
182:メリーさんの羊乳(2015/02/10)
166:ブラウンスイスミルク(2014/06/10)
158:血液型と食事(2014/02/11)
145:「おいしい牛乳」の秘密(2013/07/25)
128:食物アレルギー対応食品(2012/11/12)
119:甘い牛乳(2012/06/25)
113:ラクトフェリンは多機能タンパク質(2012/03/26)
107:羊の本(2011/12/26)
97:牛乳美人(2011/07/25)
90:『ミルク世紀』(2011/04/11)
76:ジャージー牛乳とジェラート(2010/09/10)
45:想いやり生乳と加熱殺菌乳(2009/05/25)
40:たたかう初乳(2009/03/10)
食品のトピックス | 11:24 | 2011.09.26 Monday |