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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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グルコサミン・ヒアルロン酸・コンドロイチン硫酸

No.103


 コラーゲンについては、この欄でも解説したことがありますが、サプリメントなどいわゆる健康食品に盛んに利用されている物質です。 しかし、コラーゲンの作用(保健・美容効果)に関しては、まだ科学的な根拠が乏しい状況にあります。 今回、取り上げる「グルコサミン」、「ヒアルロン酸」、「コンドロイチン硫酸」も広告などでよく目にする成分ですが、その働きはどのようなものなのでしょうか。 スーパーやドラッグストアの店頭には、これらの成分を含むサプリメントや飲料などがかなり多く並んでいます。 下の写真の製品は、3種すべてを含むちょっと欲張りな(?)サプリメントです。 なお、今回の3物質の化学構造を後で示しますが、いずれも「糖質」という点で共通性があります。

 まず、一番知名度が高いと言えそうな「グルコサミン」です。最近は、テレビコマーシャルで「世田谷育ちの・・・」というフレーズがよく流れています。構造的には、グルコース(ブドウ糖)にアミノ基が結合した「アミノ糖」と呼ばれる物質です(下図)。生体内では軟骨に多く、加齢と共に減少することもあり、古くから関節の病気との関連が考えられていました。グルコサミンを添加した健康食品の表示でも、「関節の動きをなめらかにする」といったイメージのものが多いようです。


 グルコサミンをヒトが経口摂取した場合、関節痛軽減や膝機能改善に効果があるとする学術論文がある一方で、経口摂取の効果は認められないとする論文もあります。食品成分として摂取したグルコサミンの効果は、まだ科学的証拠が十分とは言えないものの、臨床的研究も割合と多く、サプリメント成分の中では効果の科学的検討が最も行われている物質との評価も見られます。なお、サプリメントなどに利用されているグルコサミンは、カニやエビの甲殻から得たキチンを塩酸などで分解して調製したものが多いようです。下の写真の製品「いいとこミルク」(森永乳業)には、「コラーゲン+」と共に「グルコサミン+」があります。


 次に、「ヒアルロン酸」ですが、この物質はアセチルグルコサミンとグルクロン酸が交互に結合している高分子多糖です(下図)。生体内では結合組織に多く存在し、皮膚、筋肉、軟骨、血管などかなり広く分布しています。なお、結合組織とは、細胞と細胞あるいは組織と組織をつなげる働きをしている部分です。ヒアルロン酸も上述のグルコサミンと同様に、加齢と共に減少していく成分で、関節の炎症や痛みを軽減する作用を期待させる表示をしたサプリメントなどをよく目にします。また、それ以外では、肌を若々しく保つといったいわゆる「美肌効果」をうったえる美容食品(飲料)の類が多いようです。


 ヒアルロン酸の効果については、白内障治療の補助剤としての眼内注射や骨関節炎治療のための関節内注射などが有効であることが示されています。しかし、女性の皆さんの注目度が高い「美肌効果」を明確に認めた学術論文は見あたらず、その科学的根拠は乏しいと言わざるを得ません。食品などに利用されているヒアルロン酸は、以前は鶏冠など動物性素材由来のものが多かったようですが、最近は乳酸菌など微生物由来のものも増えているとのことです。ヒアルロン酸の入った製品は美肌効果を意識しているためか、下の写真の製品のように女性が好みそうなピンク色のパッケージのものが多く見られます。


 最後に、「コンドロイチン硫酸」ですが、この物質の構造は、上述のヒアルロン酸にかなり似ています。「硫酸基」が付いているのが大きな特徴の「硫酸化ムコ多糖」と呼ばれる物質です。コンドロイチン硫酸は、皮膚や血管から脳に至るまであらゆる組織に存在します。とくに軟骨には多く、軟骨の乾燥重量の30%をコンドロイチン硫酸が占めています。上述したグルコサミンやヒアルロン酸同様、軟骨に多いことからか、サプリメントなどでは関節痛への効果が期待されているようです。


 コンドロイチン硫酸は、グルコサミンと併用した場合に経口投与の効果があるという研究報告があります。しかし、コンドロイチン硫酸単独での効果を示す報告は残念ながら見当たらず、今後の検証が待たれるといった状況です。現在、サプリメント類に利用されているコンドロイチン硫酸の多くは、サメの軟骨から調製したものが多いようです。軟骨魚類に属するサメの骨格はすべて軟骨からできていて、効率よくコンドロイチン硫酸を得ることができるためです。下の写真にあるように、コンドロイチン硫酸の入った製品のパッケージには、サメのイラストがあるものが多くあります。


 今回取り上げた3種の成分は、いずれも生体内では重要な役割を演じています。しかし、これらをサプリメントとして経口的に摂取しても、軟骨や皮膚などの組織にそのまま移行するのが難しいのは、コラーゲンの場合と同様です。今回、これらの成分をヒトが摂取した場合の効果が科学的に十分に証明されていない旨の記述をしました。ただ、これは「効果がない」と言っているわけではありません。まだ十分にわかっていないだけで、やがて効果を証明するデータが揃うかもしれません。実際に、効果を実感している方々が少なからずいる状況もあります。なお、いわゆる健康食品に利用されている素材(成分)についての情報は、独立行政法人国立健康・栄養研究所の「健康食品」の素材情報データベースに掲載されているものが有用ですので、参考にしてください。

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食品のトピックス | 12:15 | 2011.10.25 Tuesday |