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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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鶏の唐揚げの科学

No.105


 最近、ちょっとした「鶏の唐揚ブーム」のようです。昔から人気のある料理なので今更の感もありますが、書店には下のような本が並んでいますし、テレビや雑誌などでは評判の唐揚げ店が紹介されています。


 先日、日本テレビの「所さんの目がテン!」という番組で「鶏の唐揚げ」がテーマとして取り上げられ、取材を受ける機会がありました(2011/10/29放送)。下の写真は私たちの研究室で収録している様子ですが、残念ながらこのシーンは不採用でした。最終的に1分間程度の出演で、正直なところ「もっといいこと言っていたのに!」という気持ちもあります。そこで、今回はその辺りを中心に紹介します。


 番組では、「ブロイラー」(130円/100g)、「東京軍鶏」(440円/100g)、「さつま地鶏」(300円/100g)の3種類の鶏肉で唐揚げを作り、それを通行人の方々に食べ比べてもらっていました。結果は、予想に反して一番安価なブロイラー肉を使った唐揚げが圧倒的な人気でした。これは、なぜでしょうか。

 ちょっと難しい話になってしまうかもしれませんが、まず食肉(筋肉)の構造について説明することにします。私たちが食肉として食べることが多い家畜や家禽の「骨格筋」は、下の図のような構造をしています。赤い部分が食肉の主要部分(ミオシンやアクチンといった骨格筋タンパク質で構成)で、これをつつむように青色で示した「結合組織」と呼ばれる部分があります。結合組織の主成分はコラーゲンで、これがお肉を食べたときに感じる「硬さ」に深く関係しています。


 一般に、家畜や家禽の成長(加齢)に伴って、筋肉は硬くなっていきます。よく言われるように、若い動物の肉は軟らかいのです。下のグラフは、横軸に鶏の週齢(6〜18週)を、縦軸に筋肉の硬さを示したものです。週齢を経るにしたがい、筋肉が硬くなっています。このとき、筋肉中ではコラーゲンの含量と状態が変化しています。鶏が比較的若い間はコラーゲンの「含量」がだんだんと増加し、その後はコラーゲンの「架橋」という現象が起こります。


 下の図に示したように、加齢に伴ってコラーゲン同士が結合(架橋)していきます。この架橋により硬くなったコラーゲンが、鶏肉などの食肉の食感に大きく影響します。ブロイラーが8週齢程度で出荷されるのに対し、多くの地鶏は20週齢近くまで育ててから出荷されます。このため、地鶏の肉ではコラーゲンの含量や架橋が多く、歯ごたえのある食感となります。


 また、地鶏の場合、放し飼いで運動量も多いため、ブロイラーに比べると筋肉が発達していることも硬さに関係しています。鶏の唐揚げのように、「軟らかさ」が評価の決め手となる料理では、安価なブロイラー肉が食材として適しています。高価な地鶏肉のせっかくの歯ごたえや美味しさを生かすためには、鍋料理などがよいでしょう。なお、今回は、コラーゲンに注目して肉の硬さの変化を説明しましたが、筋原線維タンパク質の量や状態によっても肉の硬さはかなり影響を受けます。さらに牛肉では、脂肪交雑(いわゆる霜降り)の程度も関係しています。


 ところで、スーパーの棚には下の写真にあるようなタンパク質分解酵素(パパイン)入りの唐揚げ粉が並んでいます。このような唐揚げ粉を使うと、鶏肉のタンパク質が分解されてとても軟らかい唐揚げができます。個人的には、通常のブロイラー肉を使った場合、適度な硬さの唐揚げができるので必要ないような気がしますが、とくに軟らかい唐揚げが好きな方はお試しになる価値はあると思います。


 なお、唐揚げの美味しい作り方については、インターネットで検索するといろいろな情報が得られます。評判のよい作り方は、いわゆる「2度揚げ」というものです。これはNHKの「ためしてガッテン」で紹介されてから広く普及したようです。たとえば、180℃の油で1分30秒揚げた後に4分間放置し、さらに180℃で40秒揚げるという手順です。温度や時間は様々なものが示されていますが、1回目に揚げた後の放置中に余熱で中心部まで火を通すことと、2回目に揚げたときに表面に焦げ色を付けてパリパリ感を与えることがポイントのようです。「1度揚げ」で作ると、加熱され過ぎてタンパク質の変性が進み肉が硬くなってしまいます。鶏肉は70℃程度に到達すれば十分に火が通った状態になるので、2度揚げは理にかなった方法と言えます。先日、1度揚げと2度揚げの唐揚げを家内に作ってもらい、実際に食べ比べてみましたが、2度揚げの方が明確に美味しいと感じました。


 唐揚げ好きな方のために、唐揚げ関係の本をあげておきます。『みんなの唐揚げ』(ナツメ社, ¥1029, 2011/9)は、日本唐揚協会監修の「唐揚げバイブル」とのことです。美味しい唐揚げのレシピにかなりのページが割かれていますので、料理好きな方には役立つことでしょう。もう1冊の『からあげくん』(村上康成著, 小学館, ¥1050, 2002/12)は、「いただきま〜すシリーズ」という絵本です。実用性は高くありませんが、眺めると癒されるかもしれません。


 なお、上述の日本唐揚協会は、「大真面目に唐揚げの普及に勤しむおもしろ団体」だそうです。詳しくは協会ホームページをご覧ください。最近は、ときどき「日本唐揚協会認定」マークを目にすることがあります。下の唐揚げ風味のスナック菓子「ポリンキー」(コイケヤ)にも、このマークがあります。



この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
298:罪なきからあげ(2019/12/25)
271:鶏の唐揚げと青森県民(2018/10/25)
212:お肉やわらかの素(2016/05/10)
146:お肉検定(2013/08/10)
124:食品メーカー発のレシピ本(2012/09/10)
92:青森シャモロックホームズ(2011/05/10)
9:コラーゲンとコラーゲンペプチド(2007/11/26)
食品のトピックス | 10:37 | 2011.11.25 Friday |