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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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羊の本

No.107


 北里大学の十和田キャンパス(獣医学部)には、たくさんの羊が飼われています。私たちの研究室のホームページにも、頻繁にその愛らしい姿が登場しています。私にとっては身近な家畜である羊ですが、日本での飼育頭数は少なく、最近は1万頭前後で推移しているようです。下の写真は、十和田キャンパスの羊たち(日本で飼育頭数が一番多いサフォーク種)です。


 羊の生産物は羊肉と羊毛が主なものですが、現在の日本での需要量はあまり大きくありません。ひところ、羊肉に含まれている「カルニチン」という物質のダイエット効果が注目され、ちょっとした羊肉ブームもありましたが、多くの食ブームと同様に一過性のものだったようです。日本人の食卓には、すでに牛・豚・鶏といった食肉が不動の地位を築いていますので、他の食肉が割り込むのは難しいかもしれません。羊肉の匂いが苦手という方も少なからずおられます。


 先日、私は中国の西安を訪れる機会がありました。シルクロードの起点であるこの街は、「羊の街」でもありました。羊肉の生産国として、ニュージーランドやオーストラリアがよく知られています。事実、これらの国は羊肉輸出国として1位と2位にあります。しかし、羊肉生産量は圧倒的に中国が多く、消費量も世界1位となっています。そんな中国の中でも、西安は羊肉を多く食べている地域です。これは、シルクロードによるイスラム教の食文化の影響が大きかったことも関係しています。西安ではいたるところで、「羊」の字を見つけました。なお、西安の羊肉事情については、こちらの記事もご覧ください。


 ところで、羊の乳量はあまり多くありませんが、羊乳を重要な畜産物として利用している地域もあります。ヨーロッパでは、山羊乳とともに羊乳を原料としたチーズが多く作られています。たとえば、「マンチェゴ」という羊乳チーズはスペインで最も人気のあるチーズです。下の写真で、学生さんが手にしているのは、スペインの山羊乳チーズ(左:アルビーノ)と羊乳チーズ(右:マンチェゴ)です。


 日本では食料資源としての羊の重要性はそれほど高くないものの、羊の優しい容姿は人気があります。そのためか、羊の書籍が意外に多く出されてます。そこで、今回は羊の書籍を紹介することにします。日本で「羊の本」として最も有名なのは、村上春樹氏の『羊をめぐる冒険』ではないでしょうか。1982年に発表された村上氏の代表作品のひとつですが、すでに多くの国で翻訳出版されています。村上氏の著作には、『羊男のクリスマス』という絵本もあります。

 私が最近読んだ羊を題材とした小説に、『羊に名前をつけてしまった少年』(ブロンズ新社, ¥1470, 2011/1)があります。著者の樋口かおり氏は、北海道の農業高校で教師をされている方で、実話をもとにして書いた素朴な物語です。


 羊入門書としては、以下の2冊がお勧めです。『ひつじがすき』(山と渓谷社, ¥1680, 2008/4)と『ひつじにあいたい』(山と渓谷社, ¥1890, 2009/4)は、同じ著者(写真:佐々倉実, 文:佐々倉裕美)によるものですが、美しい羊の写真がたくさん載っているのが最大の魅力です。日本各地の羊牧場の紹介など、羊に関する有用な情報もふんだんです。


 『ひつじがすき 日本のひつじ牧場』(シンフォレスト, ¥2940, 2009/5)という書籍と同名のDVDもあります。上で紹介した2冊の本の著者がハイビジョンカメラで撮影した羊映像を編集し、ナレーションと音楽を付けたものです。穏やかな羊の映像に癒されるだけでなく、羊についての基礎知識も盛り込まれています。毛刈りや牧羊犬の様子などは、映像ならではのものです。


 『sheep island』(新風社, ¥1680, 2006/10)は、平林美紀氏の写真集です。平林氏は、牛や山羊の写真集も出されており、家畜を得意とするフォトグラファーです。この写真集の羊たちの姿は魅力的で、とくに「空飛ぶ羊」は平林氏ならではの写真です。跳ねている羊たちが、本当に飛んでいるように見えます。


 海外で出版された羊の本はかなりありますが、ここでは比較的入手しやすいものだけを紹介します。『Know Your Sheep』(Old Pond Publishing Ltd, ¥642, 2008/3)と『Know More Sheep』(Old Pond Publishing Ltd, ¥642, 2009/4)は、文庫サイズのペーパーバックでお値段も手頃なものです。いずれも小さな図鑑のような本で、見開き左ページの品種解説と右ページの写真から構成されています。それぞれ、41種類と40種類の羊が取り上げられています。解説は英語ですが、写真を眺めるだけでも十分に楽しめます。


 上の2冊を格調高くしたような本が、『BEAUTIFUL SHEEP』(Frances Lincoln Publishers Ltd, ¥1689, 2008/7)です。左ページの解説と右ページの写真というスタイルは同様ですが、使われている写真はかなり上質なものです。スタジオのような場所で、それぞれの羊の体色に合った布を背景にして撮った写真は、ファッションモデルの写真集のようです。この本がこの値段で手に入れられるというのは驚きです。40品種の羊が掲載されています。なお、羊の品種は1000種類以上あると言われており、これらの本に載っている品種は比較的飼育頭数の多いものです。


 写真を使用していない読み物あるいは資料的な書籍として、以下の2冊を紹介しておきます。『ひつじ 羊の民俗・文化・歴史』(まろうど社, ¥1800, 1991/1)は、羊に関する57題の多岐に渡る話が載っています。ちょっと古い本なので入手が難しいかもしれませんが、羊について貪欲に知識を吸収したい方には貴重な情報源となるでしょう。『羊の博物誌』(日本ヴォーグ社, ¥1680, 2000/6)は、第1章で羊を「メイン種」、「マイノリティ種」、「レア種」に分けて解説し、第2章は「羊飼いの文化誌」となっています。この本は写真ではなく、カラーイラストで羊の品種の特徴を示しています。


 他にもヒツジ関連の書籍として、『羊のスケッチ』(マリア書房, ¥2940, 2008/5)、『羊毛のしごと』(主婦の友社, ¥1680, 2006/10)、『ヒツジの絵本』(農文協, ¥1890, 2001/3)といったものがあります。


 書籍ではありませんが、海外の書店に行くと家畜の写真を使ったカレンダーがよく目にとまります。牛、豚、羊といった家畜のものが多いようですが、日本ではあまり目にしないものです。もうすぐ新年なので、最後に羊カレンダーの表紙を載せておきます。『SHEEP 2012』は、毎月、異なった品種の羊の写真が楽しめるものです。



この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
301:羊名人(ようメ〜じん)(2020/03/10)
263:羊肉の魅力(2018/06/25)
244:食の歴史(2017/09/11)
182:メリーさんの羊乳(2015/02/10)
130:素敵な動物カレンダー(2012/12/10)
127:ナノブロックで作る動物(2012/10/25)
101:山羊乳の魅力(2011/09/26)
98:馬肉の魅力(2011/08/10)
91:実物大の家畜図鑑(2011/04/25)
88:家畜の写真集(2011/03/10)
84:『ぶた にく』(2011/01/11)
その他のトピックス | 15:03 | 2011.12.26 Monday |