<< March 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

<< 羊の本 | main | 玉子酒と粉末酒 >>

ホットヨーグルトの魅力

No.108


 昨年の11月に中国の西安を訪れた際に、街中の路上でドリンクタイプのヨーグルト(いわゆる飲むヨーグルト)がよく売られているのを目にしました。温めたヨーグルトも置かれていて少し驚きましたが、飲んでみると思いのほか美味でした(下写真)。


 西安は人口800万人規模の大都市ですが、小さな食料品店では日本のような巨大な冷蔵庫が普及していません。そのため、「要冷蔵」と書かれているヨーグルトなどの発酵乳製品も常温で店頭に並べられていました(下写真)。最初は、日本のように冷えたヨーグルトを食べる習慣がないために、温めたヨーグルトも違和感がないのかとも思ったりしました。


 しかし、西安からの帰りに立ち寄った北京でも、あちこちで温めたヨーグルトが売られていました。下の写真の左側にあるメニューを見ると、「老北京三祥宝」とあり、「HOT YOGHURT」は「HOT DOUZHI」と「HOT BIG BOWL OF TEA」と共に並んでいます。どうやらホットヨーグルトは、中国(北京)ではかなりメジャーな飲み物のようです。冬の北京は寒さが厳しいので、歩きながら飲むホットヨーグルトは悪くありません。なお、中国のヨーグルトは、日本で多いハードタイプよりもドリンクタイプ(飲むヨーグルト)のものが多いようです。


 日本ではヨーグルトなどの発酵乳は、冷蔵庫に保存して冷たいまま食べる(飲む)のが当たり前になっています。冷蔵保存するのは、乳酸菌による発酵が進みすぎないなど品質保持上の理由が大きいので、ヨーグルトは冷たい方が美味しいということはないと思います。冷蔵技術が普及したのは、ヨーグルトの長い歴史の中ではごく最近のことであり、欧米でも50年以上前は常温のヨーグルトを食べるのが普通だったはずです。さらに調べてみると、ヨーグルトなどの発酵乳を温めて飲むことは、中央アジアや東欧などの地域ではそれほど珍しいことではないようです。


 乳業メーカーのホームページなどには、ヨーグルトを使った温かい飲料のレシピが載っているので、もしかすると日本でもホットヨーグルトを楽しんでいる方は少なからずいるのかもしれません。ところで、「ホットヨーグルトダイエット」というものがあるようです。これも私はよく知らなかったのですが、下のような書籍も見つかったので読んでみました。

 残念ながら、なぜホットヨーグルトを摂取すると、「お腹ペッタンコ」の「腸内美人」になれるのかは理解できませんでした。しかし、この本にたくさん載っているヨーグルトレシピの中には魅力的なものがあります。冷たいヨーグルトがちょっと苦手という方は、ダイエット云々は別にして試してみる価値はあると思います。また、下の写真にあるようなダイエット効果をイメージしたホットヨーグルト製品も販売されていますが、こちらも効果のほどは私にはわかりません。


 日本では温かいヨーグルトは普及していませんが、牛乳を温めて飲むのはごく普通のことですし、カルピスを温めた「ホットカルピス」もかなり昔から親しまれています。最近では、缶入り飲料の「ほっとカルピス」も目にします。乳製品の飲み方として、「温める」というのは決して悪くないものです。


 実際に市販のヨーグルトを温めて飲んでみると、ホットに向くものとそうでないものがありました。酸味の強いものやプレーンヨーグルトを温めると、酸味が強調されてしまいあまり美味しくありませんでした。一方、甘味の強いものはホットとの相性がいい感じで、「ヤクルト」のような乳酸菌飲料を温めたものも違和感がありません。皆さんも、お試しになってはいかがでしょうか。冷たい牛乳を苦手とする方がいるように、冷たいヨーグルトが苦手で遠ざけている方もいることでしょう。

 乳業メーカーでは、「ホットでも美味しい」飲むヨーグルトといった製品の開発を試みてはいかがでしょうか。缶コーヒーなどでは、「アイスでもホットでも美味しい」製品がよくありますが、ヨーグルトでは新しい市場を開拓できるかもしれません。


 日本で販売されているヨーグルトはそれなりに美味しいものが多いのですが、1950年に発売された日本で最初の量産ヨーグルトである「明治ハネーヨーグルト」の発売以降、これを凌ぐ美味しいヨーグルトは登場したのだろうかという疑問を、常々私は持っています。とくに最近は、保健的機能を重視した食品(プロバイオティクス)としてヨーグルトが注目されていることもあり、製品開発で美味しさがさほど重視されていないようにも感じられます。ぜひメーカーの皆さんには、美味しいヨーグルトの開発やヨーグルトの美味しい食べ方の提案にも力を入れていただきたいものです。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
150:モンゴルの「白い食べ物」(2013/10/10)
147:トルコの乳酸発酵飲料「アイラン」(2013/08/30)
140:日本で最初のヨーグルト(2013/05/10)
129:ちょっと贅沢なヨーグルト(2012/11/27)
123:水切りヨーグルトとギリシャヨーグルト(2012/08/27)
86:乳酸菌・ビフィズス菌と特許(2011/02/10)
79:世界一高いヨーグルト(2010/10/25)
66:オルニチンと大人のヨーグルト(2010/04/12)
60:宇宙を旅したヨーグルト(2010/01/12)
43:幻のカレーヨーグルト(2009/04/27)
食品のトピックス | 11:05 | 2012.01.10 Tuesday |