2012.01.25 Wednesday
玉子酒と粉末酒
No.109
今回は、少し季節感のある話題で、「玉子酒」です。玉子酒(卵酒)は、古くから風邪の民間薬的な存在として親しまれてきました。鶏卵、清酒、砂糖があれば、家庭でも簡単にできるものなので、今でも愛飲されている方は多いと思います。ただ、市販製品としてあまり目にする食品(飲料)ではなく、これまでは時々、下の写真のような瓶入り製品を見かける程度でした。
そんな状況の中で、昨年の9月に発売された「おいしいたまご酒」(クラシエ薬品)は、発売3か月で30万袋を出荷するというヒット食品になりました。玉子酒に対する潜在的な需要があったのかもしれません。ところで、この製品のパッケージには、「粉末酒配合」と書かれています。「粉末酒」とはいったい何でしょう。
酒を粉末にすることができるのかと思う方も、多いのではないでしょうか。酒に含まれる最も重要な成分は、エチルアルコールです。「粉末」にするということは、通常は乾燥等により水分を除くことです。アルコールは水よりも揮発性が強いため、酒をそのままの状態で加熱や減圧による水分除去を行うと、肝心のアルコールが飛んでしまいます。
粉末酒の製造技術を開発したのは、愛知県小牧市にある佐藤食品工業という会社で、現在までに世界17か国で特許を取得した発明とのことです。ごく簡単にこの技術を説明すると、デキストリンという物質(糖質)に酒を吸収させた後に、うまい具合に(ここが重要なのですが)水だけを除去(蒸発)するというものです。デキストリンは、グルコース(ブドウ糖)が数個重合したもので、デンプンの分解により得られます(下の構造式参照)。
佐藤食品工業のホームページには、粉末酒についての解説がありますので、興味のある方はご覧ください。販売形態としては業務用単位(粉末15kg)だけで、残念ながら個人での購入は難しいようです。清酒のほかに、梅酒、ウォッカ、ラム、ブランデー、ワインなどの粉末製品があります。粉末酒の用途ですが、主たるものは飲料としての酒ではなく、食品素材として様々な目的で利用されています。たとえば、食品の風味やてり・つやの向上に役立つようです。また、酒類の入ったキャンデーやチョコレートといった菓子類にも、粉末酒は利用されています。面白いところでは、化粧品や入浴剤(酒風呂)への利用というものもあります。
話が粉末酒に行ってしまいましたが、玉子酒に戻します。玉子酒が風邪に効くというのは、本当なのでしょうか。玉子酒の主原料である鶏卵は、アミノ酸バランスに優れたタンパク質が豊富に含まれているなど栄養価値の高い食品であることは確かです。清酒のアルコールも、適度に摂取すれば体を温めてくれるでしょう。卵白に含まれているリゾチームなどの抗菌性物質が役立っているという記述も目にしますが、リゾチームは風邪のウイルスには無力ですし、肺炎の予防にも強力な効果は期待できません。残念ながら、玉子酒が風邪によく効くという決定的な根拠は見つかりませんでした。
玉子酒について調べているときに、下にあげた『玉子酒』という本を見つけました。何かいいことが書いてあるのではと期待したのですが、なんと「短歌」の本でした。「風邪ひけば 母は作りし 玉子酒」という歌が載っていました。
「玉子酒」は俳句の季語にもなっている季節感のある言葉のようです。最後に、玉子酒が登場する俳句を二句、あげておきます。
かりに着る 女の羽織 玉子酒 高浜虚子
年下の 亭主持ちけり 玉子酒 五所平之助
食品のトピックス | 14:48 | 2012.01.25 Wednesday |