2012.02.28 Tuesday
インフルエンザ予防と食品
No.111
先日、家内が「インフルエンザの予防には、『豚キムチしいたけ鍋』がいいらしい」と得意気に教えてくれました。美容院で手にした女性週刊誌に出ていたということなので、その信憑性はどの程度のものかわかりませんが、冬場になるとこの種の記事をよく目にします。なお、「豚キムチしいたけ鍋」は、豚肉のタンパク質、キムチの乳酸菌、しいたけのβ-グルカンが有効成分(?)のようです。
とくに今冬はインフルエンザが猛威をふるっているため、その予防法に大きな関心が持たれています。赤いラベルの「R-1」ヨーグルトもインフルエンザ予防に効果があるということで大ブレイクしました。ヨーグルトがインターネットオークションで数倍の値段で取り引きされたというのですから驚きです。
R-1ヨーグルトを毎日摂取した佐賀県有田町の小中学生は、周辺市町の子供たちに比べてインフルエンザ感染率が低かったという調査結果が、今年になってテレビで繰り返し紹介されました。その後、このヨーグルトを買い求める人が急増し、全国的に品薄となりました。十和田市内のスーパーでもこの製品を目にしなくなり、店頭には下の写真のような掲示がされていました。
このヨーグルトのパッケージをくまなく眺めても、「インフルエンザ」という表記は見つかりません。書かれているのは下のようなもので、インフルエンザ予防との関連は不明です。EPSの作用とか特許の内容を知りたいと思われる方も多いことでしょう。
ちょっと難しい話をしますと、R-1乳酸菌(Lactobacillus bulgaricus OLL1073 R-1)の作る多糖体(EPS)がT細胞に作用して、インターフェロンガンマを介してナチュラルキラー細胞を活性化させます。ナチュラルキラー細胞は、インフルエンザウイルスに感染した細胞をいち早く見つけて攻撃し、ウイルスの増殖を抑えます。ただ、このように作用が科学的に解明されていても、それを食品に表示することはできません。効果や効能の表示が許されるのは医薬品だけで、食品では特定保健用食品(トクホ)で限定的な表示ができるにとどまっています。そのトクホも、インフルエンザやカゼの予防についての表示が認められた例はまだなく、今後もハードルは高そうです。
なお、乳酸菌の働きには、これまでにも紹介してきたように、花粉症予防、虫歯・歯周病予防、抗肥満作用といったものが報告されています。このような作用をもつ乳酸菌を利用したヨーグルトなどの発酵乳製品も開発されていますが、上述したようにパッケージなどにはせっかくの機能を表記することができません。下にあげた本は、各メーカーが使用している乳酸菌やビフィズス菌の特徴を詳しくまとめていますので、製品選びに役立つかもしれません。
ところで、昨年の10月(2011/10)に、「バリフル」という健康食品(トローチ)の発売発表がありました。インフルエンザを予防する製品として、新聞などでもかなり取り上げられました。ニワトリにインフルエンザウイルスを注射(免疫)し、得られた卵黄から精製したウイルスに対する抗体を使用しています。
このバリフルも食品ですので、 パッケージなどに効果・効能に相当する表示はありません。 しかし、 報道後に消費者からの問い合わせが殺到するという事態になり、製造販売元のミヤリサン製薬は 「医薬品と誤解される恐れがある」 と判断し、急遽発売を中止しました。 そのときの新聞記事を見ると、 「効能をうたっていなくても、成分の説明などで誤解を招きかねない場合もある」 という厚生労働省担当者のコメントがありました。 この種の食品の開発を行っている企業関係者には気になる事例だと思います。
以前紹介した「たたかう初乳」も、インフルエンザ予防の可能性がある食品でしたが、消費者にその価値を伝えるのが難しそうに感じられました。なかなか消費者に伝えにくい食品の機能性ですが、雑誌の類にはかなり大胆な記事が載っているので、バランスの悪さを感じます。冒頭に紹介した「豚キムチしいたけ鍋」がインフルエンザ予防に効果があるというような記事を載せても、まず咎められることはありません。このあたりの状況は何らかの策が講じられてもよさそうです。
食品成分としてインフルエンザ予防に効果があるものも、よく取り上げられています。この種のもので何と言っても有名なものは、ビタミンCではないでしょうか。1970年に出版された『ビタミンCとカゼ』は、ライナス・ポーリングという著名なノーベル賞化学者による著作だったこともあり、世界的なベストセラーとなりました。その後、ビタミンC摂取によるインフルエンザ予防についての科学的評価は紆余曲折がありましたが、今日では効果がある程度立証されたと言ってよいようです。これについては、下記の本にかなり詳しく学術論文を基に記述されています。ただ、ビタミンCの効果を期待するためには「大量摂取」が重要で、果物を多めに摂るくらいではだめなようです。
その他にもインフルエンザ予防に効果があると言われている食品成分は多く、ビタミンD、緑茶のカテキン、ココアのポリフェノール、キノコのグルカンなどが代表的なものです。たとえばビタミンDの場合、4か月間服用したグループのインフルエンザ発症率は、服用しないグループの約半分に抑えられたという報告が見られます。カテキンのインフルエンザ予防効果も割合とよく研究されており、緑茶でうがいを励行した小学校ではインフルエンザ発症が抑えられた例なども示されています。カテキンの効果を期待した「緑茶でうがい」という製品も人気があります。
青森県の特産品であるナガイモ(下写真)も、インフルエンザウイルスに対する効果が報告されている食品のひとつです。当初、ナガイモのネバネバ物質であるムチンが有効成分だと推定されていましたが、酸性タンパク質が効果を担っていることが解明されました。詳しくは、弘前大学の研究報告[PDF:443KB]をご覧ください。
この冬は、食品以外でもインフルエンザ予防法に対する関心が高いようです。下の写真の「インフルエンザブロッカー」も注目度の高い製品です。これを胸ポケットに入れておけば、発生する二酸化塩素の作用により周囲のインフルエンザウイルスを撃退できるそうです。楽天の星野監督が絶賛したこともあって、現在入手困難な状況が続いています。先日、池袋の東急ハンズで初めて目にして、私も買ってみました。
食品のトピックス | 13:43 | 2012.02.28 Tuesday |