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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ラクトフェリンは多機能タンパク質

No.113


 ラクトフェリン(Lactoferrin)は、牛乳など哺乳動物の乳中に存在するタンパク質です。「多機能」なタンパク質として知られ、食品にもかなり利用されています。昨年の原発事故以降は、ラクトフェリンの放射線障害の防御効果も注目されています。


 ラクトフェリンは、アミノ酸残基689個からなる糖タンパク質です(上の分子モデルはヒトラクトフェリンのもの)。大きな特徴として鉄と結合する性質があり、ラクトフェリンという名前もその性質にちなんでいます。ラクトフェリンの生理作用として、抗菌、抗ウイルス、鉄吸収調節、免疫調節、細胞増殖促進、酸化抑制などがあります。ラクトフェリンを利用した製品として多くの方が目にしているのは、森永乳業の「ラクトフェリンヨーグルト」でしょう(左の製品が現行品)。


 このヨーグルトのパッケージ前面には「カラダの中からもっと強く」と書かれており、背面を見ると「ラクトフェリンとは生乳や母乳に含まれるたんぱく質で、健康を維持する素材として注目されています。」とあります。食品では表示の限界があり、残念ながらラクトフェリンの効果・効能を明確に記載することはできません。森永乳業のホームページには、ラクトフェリンについての詳しい解説があります。


 ラクトフェリンはヒトの母乳に多く含まれ(牛乳の10倍程度)、出産後5日目ごろまでの母乳ではさらに多く存在します。乳児にとって重要な役割を演じていると考えられているため、乳児用調整粉乳にラクトフェリンを強化している製品も見られます(下はパッケージの一部)。


 最近では、ペット用ベビーミルクでも、ラクトフェリンを配合したものを目にします。イヌやネコの母乳は、牛乳とはかなり組成が異なっているので、仔犬や仔猫を牛乳で育てるのはかなり危険なことです(こちらの記事を参照)。もちろん、ヒトの母乳とも違うので、乳児用調整粉乳を使用するのも好ましくありません。近年、アレルギーのような免疫性疾患に悩むペットが増えているので、ラクトフェリンのような免疫調節機能を有する物質がペットフードでも注目されているようです。


 ラクトフェリンの研究に熱心な企業としてライオンがあり、 オーラルケアガムやサプリメントを開発しています(下写真)。 とくに注目されている研究成果として、 内臓脂肪低減効果があります。 ラクトフェリンの歯周病に対する効果を検討する過程で、 内臓脂肪が極端に減少することに気付いたことが研究の端緒となったそうです。 また、 経口摂取したラクトフェリンが効果的に作用するために、 胃で分解されずに小腸まで届く「腸溶錠」の開発にも成功しました。 この成果は、 先日、「安藤百福賞」と「農芸化学技術賞」を受賞しました。 ライオンの「ラクトフェリン研究室」に研究成果の解説があります。

 ラクトフェリンについての情報は、上記の森永乳業やライオンのホームページにありますが、日本ラクトフェリン学会のホームページも有用です。日本ラクトフェリン学会は、毎年学術集会を開催し、発表成果は書籍としてまとめられています(下左の『ラクトフェリン2011』)。また、『腸まで届くラクトフェリンが拓くスーパーサプリメントの世界』(下右)は、ラクトフェリンの研究と普及に尽力された安藤邦雄博士の業績を中心に、ラクトフェリンの多くの機能が詳しく解説されています。


 冒頭で触れた放射線障害の防御効果や、ライオンの研究成果である内臓脂肪低減効果など、ラクトフェリンの多機能性については新たな知見が得られ続けています。今後、ラクトフェリンを利用した魅力的な食品の登場と普及が待たれます。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
259:森永乳業の百年(2018/04/25)
229:大人のための粉ミルク(2017/01/25)
128:食物アレルギー対応食品(2012/11/12)
114:リラックスミルクとテアニン(2012/04/10)
101:山羊乳の魅力(2011/09/26)
97:牛乳美人(2011/07/25)
40:たたかう初乳(2009/03/10)
食品のトピックス | 10:15 | 2012.03.26 Monday |