2012.04.10 Tuesday
リラックスミルクとテアニン
No.114
先日(2012/3/27)、「リラックスミルク」と「きれいミルク」という製品(乳飲料)が、森永乳業から発売されました。ある調査によると、牛乳の魅力として「リラックス」や「美しく」といった点を認識している消費者は60%以上に上るとのことです。「きれいミルク」は、コラーゲンとヒアルロン酸を配合したもので、割合とよくあるコンセプトの製品です。一方、「リラックスミルク」は、ギャバ(GABA)とテアニンを配合したものです。今回は、このリラックスミルクに配合されているテアニンという成分に注目しました。
森永乳業のプレスリリース資料には、「リラックスミルクは、忙しい現代人におすすめのミルクです。牛乳に関する調査で、50%の方が“不安な気持ちが落ち着き、リラックスしてよく眠れる”というメリットを挙げています。そこで、GABA、テアニンを配合し、“リラックス”を求める方をさらにサポートします。」とあります。また、主要ターゲットを「寝つきが気になる40代以上の男女」としています。
プレスリリース資料には、かなり効果・効能に近い表現がありますが、製品パッケージの記載は控えめで、「忙しいあなたに摂りたい栄養をもっと摂りやすく」という表現にとどまっています。以前、「ストレスと抗ストレス食品」で、GABAが抗ストレス作用を有する成分で、これを配合した食品が多く登場していることについて触れたことがありました。「リラックス」というのは、「抗ストレス」と密接な関係のある概念です。ただ、「抗ストレス」という表現は効果・効能表示になり、薬事法に抵触する可能性があるようです。なお、抗ストレス作用があると言われている食品素材は多く、GABAやテアニン以外にも、アンセリン、ビタミンC・E、DHA、セサミン、コエンザイムQ10、ポリフェノール、ペプチドなどが利用されています。
犬や猫といった愛玩動物におけるストレスも重視されており、抗ストレスをコンセプトとするペットフードもかなり登場しています。私たちの研究室における成果をもとに開発されたペットフードも、そんな製品のひとつです。この製品は、畜肉や魚肉タンパク質を酵素分解して調製したペプチドを配合しており、ペプチドの抗酸化作用が抗ストレス作用にかかわっています。
さて、今回取り上げるテアニン(L-Theanine)ですが、サプリメントなどには結構利用されていますが、ご存じない方も多い物質かもしれません。 茶葉に多く存在するアミノ酸の一種で、お茶の旨味成分のひとつでもあります。 上質の茶葉にはとくに多く含まれ、1950年に玉露から分離されて構造が決められました(下図)。 アミノ酸といっても、タンパク質をつくっている20種類のものではなく、やや特殊な構造を有しています。
テアニンに関する研究は多く、生理効果についても臨床試験の結果が数多く報告されています。人にストレスを負荷すると、心拍数や免疫グロブリンAが変化しますが、テアニンの摂取によりこの変化が抑制されています。また、リラックス指標であるα波の発生や睡眠時の中途覚醒減少なども報告されています。経口摂取したテアニンは、血液脳関門を通過することができることも明らかにされており、脳内における作用についても多くの研究が進められています。
テアニンを利用した食品として菓子類や飲料がありますが、リラックスを謳ったサプリメント類が目に付きます。また、上述したように、茶の旨味成分であることから、緑茶をはじめとする食品の呈味改善剤としても広く使用されています。私たちの研究室では、ペプチド(食品タンパク質分解物)を「美味しくて体に良い」食品素材として位置づけて研究を進めていますが、テアニンも保健的機能と嗜好性向上の両者を備えた素材と言えそうです。
今回、テアニンに注目しましたが、この種の成分を配合した食品を積極的に摂取する方がおられる一方で、食品は自然なものがよいという考えを持ってサプリメントの類を避ける方もおられます。緑茶を多く飲むと(1日に1リットル程度)、200〜400mgのテアニンを摂取することになります。この量は臨床試験で抗ストレス作用が十分に認められるものですので、多めにお茶を飲むようにするのもよいかもしれません。
食品のトピックス | 15:19 | 2012.04.10 Tuesday |