2012.09.25 Tuesday
卵の色いろいろ
No.125
今回は、卵の色です。卵の色といっても殻の話で、いわゆる「赤玉」などのことです(下写真)。私が小学生だった頃(40年くらい前)は、まだ赤玉がけっこう珍しくて、有難がったりしたものですが、最近ではそんなこともなくなったようです。
昔は、赤玉は「栄養豊富」だとか「有精卵」だとか、色々な俗説が言われていました。しかし、白玉と赤玉で中身(栄養分)に差はありませんし、有精卵かどうかも関係ありません。親鶏の毛色と卵殻色の間にはある程度の関係があります。「白色レグホン」種のような白色の羽毛をもつ鶏(品種)は白玉を産むものが多く、「ロードアイランド」種のような褐色の鶏は赤玉を産むものが多いようです。しかし、「白色プリマスロック」種は白い羽毛ながら赤玉を産みます。主な産卵鶏の写真が、こちらのホームページでご覧になれます。
スーパーで売られている赤玉の卵を数パック買ってきて、個々の卵の色を比べてみたところ、色の濃さに結構違いがありました。そのうちの7個を選んで色の薄いものから並べてみましたが、その差はかなりあります(左端は白玉)。さて、この殻の色は、どんな意味があるのでしょうか。
鳥類の祖先である爬虫類の卵は白色で模様もなく、白い卵を産む鳥も起源が古いと言われています。ということは、色や模様の付いた卵を産むのは進化を経た新しい鳥となります。卵殻の色や模様は、外敵に見つからないためのカモフラージュとして、獲得したと考えるのが妥当なようです。他にも、卵の温度調節に関わっているという説もあります。なお、赤玉の卵殻色素は、プロトポルフィリン(下図)という物質で赤血球のヘモグロビンに由来します。
最近、宮城大学の石川伸一先生(一昨年前まで北里大学獣医学部に所属)は、鶏卵の卵殻から抽出した色素が、有害微生物を抑える作用をもつことを明らかにしました(Ishikawa et al., FEBS Letters, 584, 770-774, 2010)。興味深いことに、卵殻色素単独では効果がなく、卵殻と光照射が組み合わされたときだけに殺菌作用が見られたとのことです。卵殻色素の新機能として生物学的に注目されるだけでなく、卵殻の新たな利用方法にもつながりそうな発見です。
最近、赤玉以外にも、殻に色の付いた鶏卵が出回っています。ピンク色の「さくらたまご」や南米原産の「アロウカナ」種の産む「青い卵」などをよく目にします。下の写真は、2年ほど前に青森県内のJA直売センターで見つけた卵のパックです。10個入りで300円という嬉しいお値段だったので、迷わず購入しました。ラベルには、手書きで「いろいろ卵(有精卵)」と書かれてあるだけで、親鳥の品種などはわかりません。食用卵なので、主に鶏卵だとは思います。
赤玉の色は、プロトポルフィリンという色素だと書きましたが、実は卵殻の色素としてもう一つ「ビリベルジン」(下図)という青色系の物質があります。ビリベルジンもプロトポルフィリンと同様に、赤血球のヘモグロビンに由来する物質で、両者はよく似た構造です。アロウカナの産む青い卵の色は、このビリベルジンによるものです。上の写真の「いろいろ卵」の色も、プロトポルフィリンの赤とビリベルジンの青の組み合わせによってできているはずです。そう言われてあらためて眺めると、いずれの卵もそんな感じがする色ではないでしょうか。
鶏卵の卵殻色については、食品関係の書籍(たとえば、『たまごの科学』といったもの)にも記述が非常に少なく、可食部である卵の中身(黄身とか白身)の成分に比べるとそれほど研究がされてこなかったようです。卵殻には、まだまだ興味深い事実が隠されているかもしれません。
鳥類の卵に関する書籍として、『世界「鳥の卵」図鑑』(新樹社, ¥3360, 2006/9)がお勧めです。「はじめに」の部分が充実しており、「卵とは何か」、「卵の形と大きさ」、「卵の色と模様」、「繁殖と孵化」、「巣」、「鳥類の分類」という項目がわかりやく記述されています。
もう少しお手頃なものとして、『いろいろたまご図鑑』(ポプラ社, ¥1732, 2005/2)がありますが、残念ながら鶏卵は載っていません。『卵、いろいろ 卵からかえる』(評論社, ¥2500, 1994/3)は子供向けの本ですが、孵化するまでの卵の様子を追った写真が魅力的です。
食品のトピックス | 14:49 | 2012.09.25 Tuesday |