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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ビスコと乳酸菌

No.135


 「ビスコ」は、だれもが知っている有名なお菓子です。このビスコ、80年前の1933年(昭和8年)2月に誕生しました。今、コンビニやスーパーの店頭には、通常の赤いパッケージとともに、ゴージャスな金色のパッケージが並んでいます。発酵バターやバニラシードを使った期間限定「80周年スペシャルビスコ」(写真右)です。


 ビスコは昔から人気のあるお菓子ですが、人気が低迷した時期もありました。しかし、数年前から人気が急上昇し、昨年も年間売上記録を更新しました。製品のリニューアルや宣伝に力を入れたことが大きいようですが、2007年に登場した「保存缶」(下の写真は、「グリコ保存缶」と「ビスコ保存缶」)も貢献しました。なお、保存缶については、以前「美味しい非常食」でも紹介しました。


 ところで、あまり知られていないようですが、ビスコには乳酸菌が入っています。パッケージの上部(「あけくち」部分)に、「おなかにやさしい乳酸菌が1億個!(5枚入り)」とあり、「乳酸菌くん」というキャラクターも描かれています。80周年スペシャルビスコには、通常品の2倍の乳酸菌が入っているようです。


 ヨーグルトのような乳酸菌を使った食品は非常に多いので、ビスコに乳酸菌が入っていても別に不思議に感じないかもしれません。しかし、ビスコの乳酸菌はちょっと特徴のある性質をもっています。この乳酸菌は、Bacillus coagulans(バチルス・コアグランス)という学名の菌で、「有胞子性乳酸菌」とか「スポロ乳酸菌」とも呼ばれています。

 私たちがよく耳にする「乳酸菌」とは、実は慣用的な名称で分類学(学術)上の厳格なものではありません。とはいうものの、どんな菌でも乳酸菌としてしまっては混乱も大きいので、乳酸菌と呼ぶべき菌の条件(基準)として、一応下の表にまとめたような性質があげられています。


 乳酸菌でとくに重要な性質は、「乳酸生成率50%以上」というものです。乳酸菌が消費したブドウ糖の50%以上が、「乳酸」という物質(有機酸)に変換されるということです。ヨーグルトの特徴的な酸味は、この乳酸によるものです。有胞子性乳酸菌(Bacillus coagulans)は「乳酸生成率50%以上」という条件を満たしていますが、ビフィズス菌はこれを満たしていません。有胞子性乳酸菌で問題となるのは、上の表にある「胞子形成なし」という点です。ただ、これらは学術的あるいは法的な定義ではないので、ビフィズス菌やBacillus coagulansを乳酸菌として扱っても大きな問題は生じませんし、好都合な部分もあります。


 有胞子性乳酸菌を使った製品はビスコなどの食品だけではなく、生菌製剤(医薬品)にもあります。パッケージを見ると、「乳酸菌整腸薬」等の表示がされています。なお、下の写真の「パンラクミン錠」(第一三共ヘルスケア)には、「有胞子性乳酸菌4.5億個含有(9錠中)」とあるので、80周年スペシャルビスコ1枚はパンラクミン1錠弱に相当することになります。


 有胞子性乳酸菌では美味しいヨーグルトができないので、発酵乳にはほとんど使われていません。では、なぜビスコやパンラクミン錠といった製品には使用されているのでしょうか。一般に胞子を形成する菌は、熱や酸に安定だと言われています。プロバイオティクスとして広く利用されている胞子をもたない乳酸菌やビフィズス菌は熱に弱いため、加熱加工を伴う製品に利用すると死滅してしまいます。しかし、有胞子性乳酸菌はパンやビスケットに添加し加工されても、長期間にわたり製品中で生存し続けます。また、胃酸などに対しても強いため、プロバイオティクスとしても優れた性質を備えていると言えます。


 今年1月に、ビスコ80周年を記念した『HAPPY BISCO MOOK』が出版されました。ビスコの歴史や名前の由来など、ビスコに関する情報が満載の本です。現在の「ビスコ坊や」は5代目で、初代とはずいぶん顔つきが違います。ビスコを使ったレシピも載っていて、スパイスを効かせた「ビスコンカン」には驚かされました。また、ビスコ誕生の1933年に生まれた著名人には、黒柳徹子さんやオノ・ヨーコさんがいるそうです。


 大人になってからビスコを食べたことがないという方も多いと思いますが、久しぶりに食べてみるとなかなか美味しいものです。3月1日からは、好きな写真や名前を入れたオリジナルパッケージのビスコを作れるサービスも始まります。詳しくは、「スマイルビスコ」という専用ウェブサイトをご覧ください。私も、パッケージに研究室の名前を入れたものでも作ってみようかと思っています。


 本稿では、有胞子性乳酸菌(Bacillus coagulans)について詳しく述べませんでした。有胞子性乳酸菌を利用した製品を作っている江崎グリコ第一三共ヘルスケアのウェブサイトには平易な解説があります。また、食品・医薬・飼料用の有胞子性乳酸菌製剤(「ラクリス-S」など)を製造販売している三菱化学フーズのウェブサイトにも有用な情報が掲載されています。

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食品のトピックス | 14:45 | 2013.02.25 Monday |