<< March 2024 | 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >>

トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

<< 黒マグロの解体フィギュア | main | 6次産業化とレストラン「NARABI」 >>

日本で最初のヨーグルト

No.140


 旅行や出張で訪れた場所では、国内外を問わず食料品売場に並べられている食品を見るのがちょっとした楽しみです。先日学会で訪れた広島市では、スーパーの乳製品コーナーに地元の乳業メーカーであるチチヤス株式会社のヨーグルトがたくさんありました。


 チチヤスの製品は全国展開をしており、青森県内のスーパーでもよく見かけますが、お膝元では種類と数が違いました。その中で目を引いたのが、4個包装のパッケージでした(下写真)。帽子をかぶったキャラクターの絵が目立ちますが、その上に黄色い文字で書かれたフレーズが気になりました。


 「日本のヨーグルトは、チチヤスから。 ― Since 1917 ―」とありますが、文字通りに解釈すると、「チチヤスは日本で最初のヨーグルトを1917年に作った」ということになるのではないでしょうか。今回は、これをきっかけにして、少しヨーグルトの歴史を調べてみました。


 なお、チチヤスのかわいらしいキャラクターは、「チー坊」という名前だそうです。ちゃんと家族もいて、「チーパパ」、「チーママ」、「チーネエ」を加えた4人構成です。詳しくは、「チー坊クラブ」というサイトをご覧ください。


 さて、ヨーグルトの歴史です。ヨーグルトの起源が、7000年ほど前のトルコ周辺であるような大昔のことには、今回は触れません。ヨーグルトが工業的に生産されるようになったこの100年間くらいの歴史に限定します。私が少し調べて作ったのが、下の年表です。個人的な関心が強く反映されているので、大切なことが抜けているかもしれません。


 様々な資料には、1919年に「ダノン」社がスペインのバルセロナに建てた工場で、ヨーグルトの本格的な工業生産が始まったとあります。それ以前もヨーグルトは世界各地で作られていましたが、家庭や地域での小規模な製造だったようです。乳製品メーカーとして世界的に有名なダノンが、最初のヨーグルト工場を建てたというのは、なるほどと思わせます。今日、世界中たいていの国のスーパーには、ダノンのヨーグルトが大量に並べられています(下写真は、各国のダノン製品)。


 チチヤス製品のパッケージにある1917年(大正6年)は、チチヤス社が日本で初めてヨーグルトをある程度の規模で製造販売を開始した年のようです。それ以前にも、日本にはヨーグルトらしき発酵乳はありましたが、工業的規模の生産ではなかったのでしょう。1917年はダノンの工場における製造開始よりも2年早いことになり、「日本で最初」なだけでなく、「世界で最初」の工業的生産の開始であった可能性すらあります。ただ、「工場」や「工業的生産」をどの程度の規模で判断するかによっても変わってくる話でしょう。


 せっかくなので、上の年表の中でとくに重要そうなものに触れておきます。1950年に販売開始されたガラス瓶に入った「明治ハネーヨーグルト」は、御存知の方が多いと思います。私も子供のころ、喜んで食べた鮮明な記憶があります。この製品が日本人とヨーグルトの本格的な出会いと言ってよいでしょう。現在、瓶入りの製品は製造されておらず、私の手許にあるのも空瓶だけですが、懐かしく感じる方も多いでしょう(下写真)。


 1971年の「明治プレーンヨーグルト」の発売も、日本におけるヨーグルトの歴史を語るうえで見逃すことはできません。この製品の登場により、プレーンヨーグルトが日本の消費者に浸透していきました。1973年に「明治ブルガリアヨーグルト」という製品名になってから今年は40年目ということで、記念ブックも出版されました。「明治ブルガリアヨーグルト倶楽部」というサイトもご覧ください。


 1970年代後半からは、数々のヨーグルトが誕生しました。「森永ビヒダス」(1977年に乳酸菌飲料として発売)は、取り扱いが難しかったビフィズス菌(Bifidobacterium)を本格的に使用したヨーグルトとして、世界的にも高く評価されました。1996年以降は、特定保健用食品(トクホ)の表示許可を得たヨーグルトも数多く製品化されました。今日では、「プロバイオティクス」という言葉もすっかり定着しました。また、「LG21」や「R-1」といった特定の乳酸菌菌株を使用することにより、製品の特徴付けをする製品も増えています。


 牛乳・乳製品が日本人の食生活に本格的に浸透したのは、最近50年間のことです。世界的に見ると、日本ではチーズのような乳製品との縁が薄かったと言えるでしょう。しかし、そんな中で、ヨーグルトなど発酵乳の工業的生産では、欧米諸国をもしのぐ形で急速に発展してきた面があります。この分野における研究や開発も、大学や企業で熱心に行われてきました。日本人の1人当たりのヨーグルト消費量はそれほど多くなく、まだ発展途上にありますが、ある面では日本は「ヨーグルト先進国」と言えるかもしれません。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
272:3種の生乳ヨーグルト(2018/11/12)
262:贅沢なヨーグルト「みるころ」(2018/06/11)
258:塩・糖・脂(2018/04/10)
253:輸出されるヨーグルト(2018/01/25)
147:トルコの乳酸発酵飲料「アイラン」(2013/08/30)
129:ちょっと贅沢なヨーグルト(2012/11/27)
123:水切りヨーグルトとギリシャヨーグルト(2012/08/27)
108:ホットヨーグルトの魅力(2012/01/10)
79:世界一高いヨーグルト(2010/10/25)
60:宇宙を旅したヨーグルト(2010/01/12)
43:幻のカレーヨーグルト(2009/04/27)
食品のトピックス | 11:17 | 2013.05.10 Friday |