2013.07.25 Thursday
「おいしい牛乳」の秘密
No.145
先日、出張先で訪れたスーパーの店頭で、「おいしい北海道牛乳」という製品を見つけました(下写真)。実際に飲んでみると、確かに一味違う感じがしました。
「おいしい牛乳」と言うと、「明治おいしい牛乳」と「森永のおいしい牛乳」がお馴染みです。ときどき、学生諸君にこれらの牛乳がなぜ美味しいのかと質問されることがあります。
冒頭の「おいしい北海道牛乳」のパッケージによると、「脱酸素殺菌製法」と「遮光パッケージ使用」というのが、美味しさの秘密になっているようです。
新札幌乳業株式会社のホームページには、「シルバーの遮光パッケージが、陳列時の光による風味劣化を防ぎます。また、脱酸素殺菌製法を採用し、溶存酸素を取り除いてから殺菌する製法で、風味を自然のままにをよりこだわった牛乳です。」とあります。牛乳は光や酸素で美味しさが失われてしまうため、これらの影響を防ぐことにより美味しい牛乳にしているようです。
「明治おいしい牛乳」のパッケージには、下のような記載があります。鍵となるのは、「ナチュラルテイスト製法」で、「殺菌前に生乳に含まれる酸素を追い出し、殺菌中の風味変化を抑えています。」とあります。さらに詳しい解説が、明治のホームページでご覧になれます。
一方の「森永のおいしい牛乳」は酸素について触れておらず、「蒸気でやさしく包みこんで瞬間的に殺菌する新しい方法を採用」とあります。この方法により、加熱殺菌乳独特の臭いを抑えているようです。森永乳業のホームページによると、森永の製法は、「フレッシュテイストプロセス製法」と名付けられています。また、濃紺のパッケージは遮光性に優れているため、紙パック中の牛乳の品質劣化を防ぐのに役立っているようです。
各社のパッケージの遮光性にどの程度の違いがあるのかを、実際に調べてみました。と言っても、パッケージの底に穴を開けて、条件を一定にしたデジカメで写真を撮っただけです(下写真)。森永と新札幌乳業のパッケージは、明らかに遮光性が高いことがわかります。カメラの露出計の数値からは、新札幌乳業の遮光性が森永よりもわずかに優っていました。森永のパッケージは、牛乳瓶の絵柄の部分が白く、それが少し遮光性を悪くしているようでした。なお、下の写真は明るさの違いがわかりやすいように、モノクロで撮っています。
「おいしい牛乳」以外にも、パッケージの遮光性を重視している製品がいくつかあります。雪印メグミルクの「メグレット遮光容器」は、独自開発の赤色インクを使用しています。また、「おいしい牛乳」というネーミングこそしていませんが、光、熱、酸素による劣化(酸化など)を防止する「メグまごころ製法」を採用しています。「タカナシ低温殺菌牛乳」の遮光パッケージは本格的なもので、厚みのある素材を使用してかなり高い遮光性を実現しています。青森県の萩原乳業の「アビタニア・ジャージー・ミルク」なども、遮光性の高そうなパッケージです。
ところで、「おいしい牛乳」という商品名をどの会社が使っても構わないのかという疑問がときどき聞かれます。これは「商標」の問題ですが、結論から言うと、「おいしい牛乳」は特許庁に商標として登録されていないので、誰が使用しても問題ありません。食品において商標は非常に重要なものですが、詳しくは「食品と商標」という記事をご覧ください。
搾乳して得た生乳は、殺菌過程や貯蔵中に、熱、酸素、光といった要因により風味が損なわれていきます。各社の「おいしい牛乳」では、様々な技術を駆使して風味劣化を抑えています。したがって、「おいしい」といっても、加熱殺菌を行わない「未殺菌乳」や加熱条件が緩い「低温殺菌乳」と比べてしまうと、分が悪いようです。なお、牛乳の風味と加熱殺菌の関係については、「想いやり生乳と加熱殺菌乳」という記事をご覧ください。
食品のトピックス | 11:31 | 2013.07.25 Thursday |