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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ペットフードと乳酸菌

No.155


 市販ペットフードの主体であるドライフードやウェットフードは、製造過程に必ず高温加熱処理を伴います。このため、熱に弱い通常の乳酸菌やビフィズス菌を原料として添加しても、製品となる前に死滅してしまいます。


 加熱処理を経て製造されるペットフードに乳酸菌を用いる場合、耐熱性のある菌を使う必要があります。下の写真は、猫用ドライフードのパッケージの一部ですが、「有胞子性乳酸菌配合」と書かれています。以前、「ビスコと乳酸菌」という記事で書きましたが、有胞子性乳酸菌とは、Bacillus coagulansという細菌です。この菌は胞子を形成するため、耐熱性に優れています。


 犬用スナック製品にも、有胞子性乳酸菌が使われているものがあります。その製品のパッケージには、下に示したような有胞子乳酸菌の特徴が書かれています。


 乳酸菌ではありませんが、Bacillus subtilis(枯草菌)という有胞子性細菌を添加したペットフードも見られます。Bacillus subtilisも胞子を作る耐熱性のある細菌で、納豆菌などもこの菌の一種です。保健的機能を示すプロバイオティクスとして、食品にも利用されています。下の写真は、犬用ドライフードのパッケージの一部です。「活性菌」というのがBacillus subtilisを指しています。


 加熱処理せずに製造できるサプリメントやおやつ類では、乳酸菌やビフィズス菌を利用したペット用製品が数多く市販されています。われわれ人間が摂取するヨーグルトやサプリメントなどでは、使用している菌種(たとえば、Lactobacillus rhamnosus)を記載したものが多くあります。しかし、ペット用製品の多くは、単に「乳酸菌」や「ビフィズス菌」といった表記にとどまっています。


 最近では一部の製品で、菌種名を表記するものも登場しています。下の写真の「犬には犬のビフィズス菌」と大きく書かれている製品は、犬由来のビフィズス菌(Bifidobacterium pseudolongum)を使用しているとのことです。今後は、こういった製品が増えていくのでしょう。


 「ヘルシー・エッセンシャルズ」というちょっとユニークな製品があります。11種類もの乳酸菌やビフィズス菌のカクテルがスプレー容器に入った製品で、ドライフードやウェットフードに吹きつけて使用する「プロバイオティクス・スプレー」です。ペットフードに乳酸菌を配合するのが難しいという問題を解決する方法として、有望なものかもしれません。


 人間と同様に、犬や猫も腸内細菌叢が健康に重要な役割を果たしていることは疑いがありません。しかし、人間に比べるとまだ十分な研究が進められていない状況です。ペット用製品に利用されている乳酸菌やビフィズス菌も、人間の食品に利用されているものが流用されているものが少なくありません。犬や猫の健康維持・増進に適した乳酸菌やビフィズス菌の効果的な利用法の開発が待たれます。


 前回紹介した『ペットフード・ペット用医薬品の最新動向』という書籍の中には、「プロバイオティクスとプレバイオティクス」という章が設けられています。乳酸菌やビフィズス菌といったプロバイオティクスだけでなく、オリゴ糖などのプレバイオティクスについても言及し、犬や猫の健康への寄与が論じられています。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
207:味噌汁にも乳酸菌(2016/02/25)
167:死んでも働く乳酸菌(2014/06/25)
154:ペットフードの書籍を監修(2013/12/10)
153:ネコにタウリン(2013/11/25)
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136:「a-iペプチド」とキャットフード(2013/03/12)
135:ビスコと乳酸菌(2013/02/25)
86:乳酸菌・ビフィズス菌と特許(2011/02/10)
24:ペットフードと特許(2008/07/09)
ペットフードのトピックス | 14:04 | 2013.12.25 Wednesday |