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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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オムレツの話

No.156


 鶏卵を用いた料理は数多くありますが、「オムレツ」は代表的な卵料理のひとつと言えるでしょう。オムレツの語源については、諸説がありますが、昔、スペインの王様が空腹のときに、手際よく溶いた卵を焼いてくれた男に、「オム・レスト(素早い男)」と言ったという話が有名です。この話の真偽はともかくとして、オムレツが短時間で作れる料理であるのは確かです。


 オムレツというと、フランスのモン・サン・ミッシェルにある有名なレストラン「ラ・メール・プラール(La Mere Poulard)」のものが、よくテレビなどで紹介されています。メール・プラールの支店が東京と横浜にもできたので、わざわざフランスまで行かなくても食べることができます(下の写真は、東京丸の内店)。


 メール・プラールの看板メニュー「ふわふわオムレツ」は、よく泡立てた卵をベースに作られた具の入っていないプレーンオムレツです。その美味しさが絶賛される一方で、お値段の割にはちょっと物足りないという声も聞かれます。評価については、色々なところに書かれていますので、関心のある方はネット上を探してみてください。


 メール・プラールのオムレツは、使用している鶏卵にもこだわっているようです。以前、出張先で立ち寄った食材店で、「メール・プラール認定」の鶏卵というのを見つけました(下写真)。各種鶏卵の生産・販売で知られるイセ食品の製品で、特別に配合した飼料を与えて育てられた鶏の卵です。


 メール・プラールのシェフと試食を重ねて開発されたオムレツに最適な鶏卵で、「味がしっかりしており、バターの風味に負けないコクに特徴がある」とのことです。卵殻の色は風味にはあまり関係しないと言われていますが、パッケージを開けたときに目に入ってきた濃い色(下写真)が印象的でした。生卵のままで食べてみたところ、たしかに一味違うように感じられました。


 オムレツはわれわれ日本人にも馴染みのある料理ですが、私個人のことを言えば、ふだんはあまり食べることはありません。海外にでかけると、ホテルのブッフェ会場の一隅でオムレツを調理してくれる料理人がよくいます。それが結構美味しそうに見えるので、私もときどき注文します。このとき、具の種類を聞かれますが、ハムとマッシュルームとチーズなどを指差し具沢山のオムレツをお願いしています。プレーンオムレツを注文する外国人の方がいると、少々粋に見えます。


 『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』(石井好子著, ¥1000, 暮しの手帳社)という本があります(下写真左)。1963年の出版ですが、現在でも入手できるロングセラーです。著者の石井好子さん(1922〜2010)は、シャンソン歌手が本業でしたが、エッセイストとしても知られ多くの著書を残されています。この本を読むと、オムレツという料理のフランスでの重みが理解できます。なお、後年(1965年)出版された『東京の空の下オムレツのにおいは流れる』(¥1000, 暮しの手帳社)も、お勧めの一冊です(下写真右)。


 私自身は、あまり料理をすることはありませんが、食材としての卵にはかなり関心があります。今回、卵料理の本(レシピ集)を何冊か手に入れてみたので、以下に印象に残った5冊を紹介します。1冊目は、石井好子さんのもので、『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる レシピ版』(石井好子著, 扶桑社, ¥1600, 2004年)です。フランスでは、日本や米国のように朝食に卵料理を食べる習慣はなく、オムレツも夕食の一品料理という位置付けだそうです。オムレツを始めとするパリ仕込みの卵料理が紹介されています。


 やや本格的なレシピ本として、『ビストロの卵料理』(旭屋出版, ¥2625, 2011/12)『自慢したくなる卵の料理』(平野由希子著, 講談社, ¥1575, 2008/11)があります。とくに前者は読み応えがあり、レシピ以外にも「知っておきたい卵のQ&A」などが魅力的な一冊です。


 コンパクトで価格も手頃なものとして、『たまごの本』(松田美智子著, 主婦と生活社, ¥1050, 2010/12)『ヨード卵光 毎日!たまごレシピ』(日本農産工業監修, ワニブックス, ¥900, 2013/10)をあげておきます。後者は、ここ数年続々と登場している「メーカー発のレシピ本」です。「究極のふわふわオムレツ」も載っています。


 卵料理のレシピを見ると、うまく卵の科学的性質を利用していることがわかります。学生諸君への講義では、卵の重要な性質として、「熱凝固性」、「起泡性」、「乳化性」などを説明していますが、「ふわふわオムレツ」や「スフレ」では、卵白タンパク質の起泡性を生かしたうえで、卵タンパク質全体を熱凝固させています。今回、レシピ本で得た知識は、講義でも役立てられそうです。



この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
157:マヨネーズの話(2014/01/27)
137:ちょっと便利な卵調理用グッズ(2013/03/25)
125:卵の色いろいろ(2012/09/25)
109:玉子酒と粉末酒(2012/01/25)
106:生卵と日本人(2011/12/12)
85:プリンの謎(2011/01/25)
44:卵かけご飯ブーム(2009/05/11)
19:たまご博物館(2008/04/25)
食品のトピックス | 14:41 | 2014.01.10 Friday |