2014.01.27 Monday
マヨネーズの話
No.157
どこの家庭の冷蔵庫にもあるマヨネーズは、18世紀半ばにスペインのメノルカ島で誕生したという説が有力です。日本では、1925年(大正14年)に最初の国産品「キユーピーマヨネーズ」が製造・販売され、食卓に浸透していきました。1990年代後半には「マヨラー」なる熱狂的なマヨネーズファンまで登場し、下にあげた書籍も出版されました。
マヨネーズは、鶏卵、植物油、醸造酢の3つを主原料とする調味料(ドレッシング)です。「日本農林規格」(JAS)では、食用植物油脂、醸造酢及びかんきつ類の果汁、卵黄及び卵白、たん白加水分解物、食塩、砂糖類、はちみつ、香辛料、調味料、香辛料抽出物以外の使用をマヨネーズに認めていません。このJASに当てはまるマヨネーズとして、下にあげたような市販製品があります。
マヨネーズは、油と水(酢)という互いに溶け合わない原料を使用しながら、液状のドレッシングとは違って分離することはありません。これは、卵黄の有する「乳化性」という性質のためです。卵黄成分(低密度リポタンパク質)が、油と水のいずれにも結合し、マヨネーズは安定した状態に保たれています(下図参照)。
ところで、一見マヨネーズに見えるものの、JASの定めるマヨネーズには該当しない「マヨネーズタイプ」の製品があります。下に並べたのは、いずれもキユーピー社の製品ですが、右側3つはマヨネーズではありません。パッケージ裏面には、「サラダクリーミードレッシング」あるいは「半固体状ドレッシング」と記載されています。これらの製品は、「カロリー50%カット」や「ノンコレステロール」をPRポイントとしています。右端の「キユーピーディフェ」は、特定保健用食品の許可も得ています。余談ですが、「キユーピー」の「ユ」は小文字の「ュ」ではなく、大文字の「ユ」で表記されます。似たような例として、「キヤノン」や「シヤチハタ」があります。
現在、マヨネーズタイプの製品は多く、下にあげたものもマヨネーズではなく、JASでは「半固体状ドレッシング」です。中央の2つは、そのパッケージからもわかりますが、卵をまったく使用していない製品です。右端の製品は、「とれて3日以内の国産新鮮たまご」の使用と、油の量を半分以下に抑えていることを特徴としています。鶏卵と植物油を主原料とするマヨネーズは、約70%の脂質を含むカロリーの高い食品です。このため、カロリーを抑えたマヨネーズタイプの製品が多く開発されるのは、必然のことなのでしょう。
食品の中にはマヨネーズのようにJASで厳密に定義がされているものがある一方で、プリンのようにまったく定められていないものもあります(「プリンの謎」参照)。また、海外製品の場合、国によって法律が異なるので、日本ではマヨネーズとして認められないものも、マヨネーズとして販売されていることがあります。欧米でもマヨネーズやマヨネーズタイプの製品は多く製造・販売されており、下にあげた米国の「Nayonaise(ナヨネーズ)」は卵を使用しない大豆製品です。日本の輸入業者により、「マヨネーズタイプ豆腐ドレッシング(乳化液状ドレッシング)」というラベルが付けられていました。
マヨネーズタイプ製品が増える一方で、マヨネーズにこだわった付加価値の高い製品も作られています。左端の「松田のマヨネーズ」は蜂蜜を使用しているのが特徴のひとつです。以前はマヨネーズに関するJASの記載に蜂蜜が入っていなかったため、JAS法の品質表示基準違反に問われたことがありました(松田のマヨネーズ事件)。しかし、2008年にJAS法が改正され、蜂蜜もマヨネーズの原料に入れられました。右側の3製品は、それぞれ、「有精卵」、「黒酢」、「神果卵(しんからん)」の使用を特徴としています。
ビン入りの製品も、プレミアム感を演出しています。下左端の「濃黄マヨネーズ」は、熊本県産の良質な鶏卵と国産米油の使用を謳っています。右側の3製品は、「マヨネーズ」と大きく書かれていますが、よくみると「タイプ」という小さな字が添えられています。「ゆずこしょう」、「黒ごま」、「にんにく」の使用により、個性を高めています。
マヨネーズについて詳しく知りたいという方のために、2冊の書籍を紹介しておきます。『マヨネーズ大全』(カベルナリア吉田, データハウス, ¥1680, 2002/2)は、帯に書かれているように「マヨネーズ大百科」とよぶに相応しい内容です。国内で販売されているマヨネーズやマヨネーズタイプ製品70種が写真入りで解説されており、マヨネーズマニアも納得の1冊でしょう。『キユーピーのマヨネーズレシピ』(キユーピー監修, 主婦と生活社, ¥900, 2012/10)は、「メーカー発のレシピ本」です。マヨネーズを使った簡単なエビフライの作りかたなど、ちょっと意外なマヨネーズの利用方法が紹介されています。
最後に、ちょっとだけ講義的なことを書き足しておきます。 前回の「オムレツの話」で、「ふわふわオムレツ」は、卵の「凝固性」と「起泡性」を利用して調理されると書きました。 これら2つに今回の「乳化性」を加えた3つは、「卵の3大特性」と呼ばれている調理・加工上重要な性質です。 忘れてしまったという学生諸君は、ぜひ思い出してください。
食品のトピックス | 11:36 | 2014.01.27 Monday |