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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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血液型と食事

No.158


 日本では血液型による性格診断に人気がありますが、海外では韓国と台湾以外ではほとんど関心を持たれていないそうです。1971年に出版された『血液型でわかる相性』という本が、ブームのきっかけとなったと言われています。その後、血液型と性格を関連付ける科学的根拠がないと言われ、「似非(えせ)科学」の類と見なされるようになりました。このあたりの経緯については、最近出版された『血液型で分かるなりやすい病気なりにくい病気』(永田宏, 講談社ブルーバックス, ¥840, 2013/11)に書かれています。


 この本によると、血液型性格診断ブームの影響もあって、日本の大学医学部では輸血と臓器移植以外で血液型を語ることが長くタブー視されてしまったとのことです。ところが近年、血液型と病気の様々な関係が明らかにされ、「血液型病気学」ともよばれる領域に対する関心が高まっているようです。


 血液型は血液だけのものではありません。最初に研究されたのが血液だったので、そう名付けられましたが、血液型物質は内臓など広く全身に分布しています。ABO血液型の違いは糖鎖構造の違いで、下の図では各血液型の赤血球を示しています。赤く描いた赤血球の周囲にあるのが血液型を決定している糖鎖です。


 詳しい説明は省略しますが、それぞれの血液型で赤血球の表面に存在する糖鎖が微妙に異なっています。さらに、それぞれの血液型の人は、異なる抗体を血液中に持っています。これが輸血の際の適合性にも関係しています。このような血液型物質(糖鎖)は、後述するように腸管にも大量に存在し、重要な役割を演じています。


 ところで先日、テレビ番組でブラジル人のほとんどがO型だという話をしていました。国によって血液型の分布は大きく異なっていますが、下の表に4つの国の血液型比率を示しました。


 日本ではA型が多いですが、インドのようにB型が多い国もあります。また、韓国ではAB型も頑張っています。ボリビアのように大半がO型だと、血液型性格診断も流行ることはないでしょう。国によって血液型の比率が違う理由はとても興味深いのですが、関心のある方は下にあげた本をご覧ください。いずれも、寄生虫博士として有名な藤田紘一郎先生によるものです。


 これらや冒頭に紹介した本には、血液型と病気の関係についてかなり詳しく解説されています。A型は胃がんのリスクが高い、O型はがんになりにくいがピロリ菌には弱い、B型は肺炎に罹りやすい等々の話が紹介されています。これらの関係は、今日では科学的に証明されていると言ってよいようです。たとえば、ピロリ菌の細胞表面にある「アドヘジン」という物質はO型の血液型物質と結合しやすいため、O型はピロリ菌の感染リスクが高くなります。似たような現象は、ノロウイルスやインフルエンザウイルスなどにも見られます。


 感染症をもたらす細菌やウイルスだけでなく、われわれにとってよい働きをする乳酸菌も血液型物質を認識するという研究成果が報告されています。東北大学の齋藤忠夫教授は、腸管上皮細胞を覆っているムチン層に大量に存在する血液型物質(糖鎖)を認識する乳酸菌が存在することを明らかにしました。このような「血液型乳酸菌」は、下に示した図のようなイメージで腸管に存在すると考えられています。


 すでに紹介した藤田紘一郎先生の書籍『血液型の科学』(祥伝社新書, ¥798, 2010/2)にも、血液型乳酸菌の話が解説されています。将来、「A型ヨーグルト」といった製品が誕生する日が来るかもしれません。また、乳酸菌だけに限らず、血液型納豆菌を利用した「O型納豆」など新しいコンセプトの発酵食品の展開につながる可能性もあります。


 腸管表面の血液型物質である糖鎖を認識する乳酸菌側の物質は、「レクチン」とよばれるものです。レクチンは乳酸菌などの微生物だけがもっている物質ではなく、植物など広く自然界に存在します。われわれが摂取する食品では、豆類、魚介類、穀物、野菜などに多く含まれています。こういった食品に含まれるレクチンも、種類によって血液型物質の認識が異なります。レクチンから考えると、A型には赤インゲンなどの豆類が合わず、O型には小麦胚芽が合わないことが予想されるようです。


 また、免疫学的な観点から、血液型によって体に合わない食品があるという説もあります。たとえば、A型の血液型物質を含む豚肉は、B型の人には合わない可能性があるという話です。これは、B型の人は抗A型物質抗体を体内にもっているため、豚肉のA型物質と「抗原抗体反応」を起こしてしまうということです(下図)。身近な食品だけに気になる話ですが、あくまでも仮説です。なお、この説によると、O型の私に合わない食品は牛肉で、私に合う食品は貝類のようです。


 ところで、私も最近まで知らなかったのですが、「血液型別ダイエット」というものが結構人気があるそうです。書店に行くと、下にあげたような本が見つかります。左側の本のタイトルは、O型の私にはうれしいものです。もともとは、米国の臨床医・ダダモ氏が自らの経験に基づき提唱した理論ですが、科学的な根拠が十分にあるとは言えないようです。


 血液型と病気の関係を探る「血液型病気学」の領域では、すでに数々の科学的知見が得られています。しかし、血液型と食事の関係を扱う「血液型食品学」ともよぶべき領域はまだ存在せず、研究者もほとんどいません。正直なところところ、血液型によって食事の内容を考える必要があるのかどうか、私にもわかりません。今のところ、血液型と寿命の関係さえ、まだはっきりとしていません。B型が長命であるとする日本での調査結果がある一方で、B型が短命という米国の研究報告もあります。基礎的な部分を含めて、今後の研究の進展が気になるところです。もしかすると、将来、血液型性格診断が科学的根拠のあるものとして再登場することもあるかもしれません。
この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
128:食物アレルギー対応食品(2012/11/12)
111:インフルエンザ予防と食品(2012/02/28)
101:山羊乳の魅力(2011/09/26)
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食品のトピックス | 14:34 | 2014.02.11 Tuesday |