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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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インドの食肉事情

No.173


 先日(2014/9/6〜14)、初めてインドを訪れる機会がありました。今回は、首都デリー(Delhi)とインド北東部メガラヤ(Megaraya)州のシロン(Shillong)で目にしたインドの食肉事情をお伝えします。


 インド人の8割近くがヒンドゥー教徒であるため、インドはヒンドゥー教の国と思われがちです。しかし、人口の多いインドでは、13%ほどのイスラム教徒も大きな集団です。これらに加えて、キリスト教、シーク教、仏教といった宗教も、それなりの存在感を持っています。宗教と肉食の関係は、実に密接です。まずは、デリーの様子からご覧ください。


 オールドデリーでは、鶏を運ぶ車や自転車をよく目にします(上写真)。また、通り沿いには、鶏を扱う店(下写真左)や小さな肉屋さん(下写真右)が多くあり、インド人の食生活における食肉の重要性がうかがえます。


 南デリーにある「I.N.A.マーケット」は、「デリーの台所」と呼ばれる市内最大規模を誇る市場です。市場内には食肉店も多く、とくに鶏肉を扱う店が目に付きます(下写真)。なお、手っ取り早くその国の食生活を知るには、スーパーマーケットを訪れるのが有効ですが、インドはスーパーがきわめて少ない国で、とくに食肉類を扱うところはほとんどないとのことでした。


 鶏肉に次いで多いのが、マトンを扱う店です( 下写真 )。 ただし、インドでのマトンは事実上 「 山羊肉 」 を意味しており、羊肉は目にしませんでした。 鶏肉と山羊肉が食肉の主体であるのは、ヒンドゥー教徒とイスラム教徒が多いことを反映しているのでしょう。


 イスラム教徒が多いことは、「ハラル ( Halal ) 」 を掲げる店舗 ( 下写真 ) が少なからずあることからもうかがえます。なお、「 ハラル 」 については、こちらの記事をご覧ください。


 豚肉を扱う店も結構ありますが(下写真)、デリーでは牛肉店を見かけることはありませんでした。圧倒的にヒンドゥー教徒が多いデリーでは、当然のことなのでしょう。


 なお、牛肉を見かけることのないデリーですが、噂どおり生きた牛はオールドデリーのあちこちで見かけました。ヒンドゥー教では牛は神聖な動物であるため、乳を出さない雄牛は処分されずに「野良牛」になることが多いそうです。


 一方、メガラヤ州の州都シロンは、標高1400mのインド有数の避暑地です(下の写真は、シロン中心部)。メガラヤ州一帯は多くの民族が混在し、宗教的にもデリーとは大きな違いがあります。イギリスの植民地時代の影響で、キリスト教徒が多い州とのことです。


 バラ・バザール(Bara Bazaar)は、シロン最大の見どころと言われる場所で、インド北東部地方で最大規模の市場です。もちろん、食肉関係も充実しています。鶏肉は、生体での取引が主な様子で、市場内の一角には鶏の入った籠がたくさん並んでいます(下写真左)。鶏肉や鶏卵を扱う店もあり、「ハラル(Halal)」の文字も見えます(下写真右)。


 市場内で食肉店が集まる場所はかなり広く、主に牛肉店と豚肉店から構成されています(下写真)。牛肉店が多いのは首都デリーと大きく異なる点で、ヒンドゥー教徒が少ないことを感じさせます。


 牛肉店はどこも、店員が忙しそうに牛肉を処理していました(下写真)。ちょっと気になったのは、冷蔵庫のない環境で挽肉を扱う店が多かったことです(下写真右)。


 牛肉店に比べると、豚肉店はのんびりとした感じのところが多く、限られた数の肉塊を並べ、店主たちがまったりと客を待つといった風情でした(下写真)。


 今回、 インドの市場で販売されている食肉 ( 生肉 ) の様子を紹介しました。 インドでは、 ハム・ソーセージなどの加工食肉製品の生産・消費量は非常に少なく、 一般家庭ではほとんど購入することはないとのことでした。 下の写真の鶏肉ソーセージは、 シロンで製造された製品ですが、 インド滞在中に目にした数少ない加工食肉製品でした。



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食品のトピックス | 12:42 | 2014.09.25 Thursday |