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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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インドの乳・乳製品事情

No.174


 前回、「インドの食肉事情」をお伝えしました。今回は、「乳・乳製品」です。実は、インドは世界一の酪農国であり、生乳生産量は日本の15倍にもなります。デリー市内でも、牛乳販売店をよく目にしました。


 上の写真は、「 Mother Dairy(マザー・デイリー) 」という会社の販売店です。 マザー・デイリー社は、 首都デリー周辺で高いシェアの乳業会社です。 このような販売店で注目すべきは、 牛乳を量り売りする自動販売機が設置されていることです。 牛乳缶などの容器を持参して、 硬貨を投入すると相当量の牛乳が出てくるという仕組みです。


 インドでは、今日でも牛乳(あるいは水牛乳)の販売は、量り売りが主流です。デリーのような都会では自動販売機がありますが、多くの地域では伝統的な方法で取り引きされています。このため、牛乳缶はインドの家庭の必需品とのことです。


 インド全体では、「Amul(アムール)」が最大の乳業会社です。デリーでも、下の写真の看板にある女の子の絵をよく目にしましたが、アムール社の販売店は、全国的に非常に多いそうです。後述するような多くの乳製品も製造しています。


 インドには日本のようなスーパーマーケットが少ないため、食品事情を簡単に把握することができません。ようやく見つけたデリーのささやかなスーパーには、ある程度の種類の乳製品が並べられていました(下写真)。


 最近では、多くの国で見かけるようになった「ヤクルト」ですが、棚に占める面積から、インドでもその人気がうかがえました。


 インドの代表的な発酵乳として、「 Dahi(ダヒ) 」があります。 食べてみると、日本のプレーンヨーグルトと比べて、風味に大きな違いは感じられませんでした。 下の写真にあるように、ダノン社やネスレ社といった外資メーカーも、インドではダヒという名前でヨーグルトを製造販売しているようでした。 家庭でダヒを作っているという方も多いようです。


 インドでは、まだ機能性食品の類は少ないようですが、マザー・デイリー社の「プロバイオティック・ダヒ」を見つけることができました。この種の製品は、やがてこの国でも増えていくことでしょう。


 最近では、日本でもお馴染みになってきた「 Lassi(ラッシー) 」という飲料があります。ラッシーは、インドの代表的な飲料のひとつと言ってよいでしょう。上述のダヒに、ミルク、クリーム、水、砂糖など加えて調製します。下の写真は、アムール社とネスレ社の製品です。


 「 Mishti Doi(ミシュティ・ドイ) 」も、インドで人気のある発酵乳です。甘く濃厚でクリーミーなヨーグルトといった感じの乳製品です。「 Jaggery(ジャガリー) 」と呼ばれる未精製の黒糖(サトウキビなどを原料)を使用しているため、製品は赤茶色をしています。下の写真は、マザー・デイリー社の製品です。


 驚いたのは、スパイスの入った乳製品でした。スパイス入りの甘い発酵乳 「 Shrikhand(シュリカンド) 」や甘くない発酵乳「 Raita(ライタ) 」などがあります。 私が実際に食べてみたのは、アムール社の「 Masti 」というスパイシー発酵バターミルクでした(下写真)。正直なところ、食べ慣れない味であったこともあり、美味しいとは思いませんでした。


 スパイスはインドの人たちにとって非常に大切なもののようで、インド国内の移動に利用した航空会社の名前も、「 Spicejet(スパイスジェット) 」でした(下写真)。日本ならば、「醤油航空」とか「味噌航空」といった感じでしょうか。


 チーズの類では、「 Paneer(パニール) 」と呼ばれるカッテージチーズが、インドではよく食べられています。スーパーでは、量り売り用の大きな塊が置かれていました(下写真左)。ほとんど発酵させていないので、非常に淡泊な味です。カレーなどの料理に入れて利用することが多いようです(下写真右)。


 インドの乳製品で忘れてはならないのが、「 Ghee(ギー) 」というバターオイルです。牛乳や水牛乳から調製した発酵バターを煮詰めて濾過することにより、脂肪分以外を除いて作られます。加熱に伴うメイラード反応により、独特の風味も付与されます。下の写真のアムール社の缶詰製品は、日本でも入手可能です。


 インドでは、牛よりも水牛による乳生産量が少し上回っており、ムラー種などの水牛が多く飼育されています。水牛は、インドのような高温多湿の環境でも乳量が豊富です。また、脂肪分が8%も含まれており、ギーなどの乳製品の原料としても優れています。下の写真は、インド農業研究機構の研究所で撮った写真ですが、ここでも水牛を用いた研究が盛んとのことでした。


 インドの人々の乳利用は、 チャイに混ぜるなど飲用が主体であり、 乳製品はギーやパニールなどの伝統的製品が大部分を占めています。 まだチーズや発酵乳の種類もそれほど多くなく、 乳製品市場の今後の発展が期待できるように感じられます。 すでにインド市場に参入している大手外資メーカーも、 そんな思惑を持っているのでしょう。

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266:America's Dairyland(2018/08/10)
204:ロシアの乳製品(2016/01/12)
193:モンゴルは馬乳の季節(2015/07/25)
175:インドのベジタリアン食品表示(2014/10/27)
173:インドの食肉事情(2014/09/25)
161:インドネシアの発酵食品(2014/03/29)
150:モンゴルの「白い食べ物」(2013/10/10)
147:トルコの乳酸発酵飲料「アイラン」(2013/08/30)
108:ホットヨーグルトの魅力(2012/01/10)
食品のトピックス | 11:42 | 2014.10.10 Friday |