2015.08.25 Tuesday
においの商標登録
No.195
以前、「食品と商標」で、「商標」について解説しました。このときは、商標とは「ブランド」や「ネーミング」のこととし、企業名、ロゴ、マーク、製品名といったものを例としてあげました。しかし、最近、商標の範囲が拡大しつつあり、従来の説明では不十分な状況になってきました。
日本では昨年4月(2014/4)に、「音」、「色」、「映像」も商標登録の対象となる改正商標法が成立しました。米国では70年ほど前からこれらを登録できたので、遅まきながらの法改正でした。この日本の改正商標法は、今年4月(2015/4)に施行され、すでに大幸薬品やコスモ石油といった企業から、「音」の商標が出願されています。
先日の新聞記事に、「においの商標 協議進む TPP交渉 米などが要求」というものがありました(読売新聞経済面, 2015/8/18)。TPP(環太平洋経済連携協定)の交渉では、貿易自由化を目指した関税撤廃の議論が中心ですが、知的財産権に関しても協議が進められています。その中で、「においの商標」も取り上げられています。米国などでは、すでに「におい」の商標出願が認められています。まだ米国でも登録数は少ないものの、久光製薬の「サロンパス」のにおいなども商標として登録されています。
しかし、特定のにおいを商標登録するには、まだ状況が整っていないように感じられます。「味」は5つの基本味で表され、「味覚センサー」のような装置により、ある程度デジタルデータにすることもできます。しかし、「におい」はかなり複雑で、数十万種以上のにおい物質が存在すると言われています。「におい識別装置」も開発されていますが、いまだ発展途上の装置です。現状では、物質の構造や組成といった化学的な特徴づけにより、特許として知的財産権を確保するのが妥当に思われます。これまでにも香料や香水の組成などが多く出願・登録されています。私たちの研究室でも、ペットフード用の香り物質のカクテルを考案し、特許出願しました。
一昨年のエイプリルフール(2013/4/1)に、グーグルから世界初のにおい検索サービス“Google Nose(グーグルノーズ)”がリリースされました。あらゆるにおいを集めて構築したデータベースとアンドロイドOSのにおい検知機能により、目的物にスマートフォンをかざすだけで何のにおいかを即座に表示できるというものでした。さらに、薔薇、ワッフル、ゴミ箱、クルマの排気ガス、といったにおいをパソコンやスマートフォンで再現することもできるという驚きの機能をうたっていました。
グーグルノーズの話を聞いたときは、ただのエイプリルフールのジョークで、とうてい実現不可能な技術だと思いました。しかし、昨年紹介した「鼻焼肉」(下写真)の登場は、グーグルノーズのようなシステムが開発可能なのではないかと予感させるものがありました。現在、遠隔匂い再現システムの研究も進んでいるようです。におい情報をインターネット上で扱えるようになれば、においを商標として登録するのも容易になるでしょう。
食品のトピックス | 12:09 | 2015.08.25 Tuesday |