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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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霜降りか赤身か

No.196


 今回のタイトルで原稿を書き始めたところ、毎日新聞のコラム「憂楽帳」(2015/9/1)に、「赤身か霜降りか」が掲載されているのを見つけました。かなり似たタイトルですが、お許しください。さて、美しい「サシ(細かい脂肪)」の入った「霜降り」肉は、高級牛肉を象徴するような存在です(下の写真は神戸ビーフ)。


 最近、この霜降り肉信仰に変化が起こりつつあり、いわゆる「赤身」肉の人気が高まってきています。「くまもとあか牛」のように供給が追い付かないブランド赤身肉もあります。これまでサシの多い牛肉を生産することに注力してきた畜産農家の一部には、「脱霜降り」の動きも見られるようです。


 赤身肉人気の背景に、カロリーの高い霜降り肉を避けるという健康志向の消費者が増えたことがあげられます。以前は健康面からのPRが少なかった牛肉ですが、下の写真の冊子(全国食肉事業協同組合連合会作成)のような形でも魅力が伝えられるようになってきました。また、先日この欄の「熟成肉は美味しくて体に良い」でも取り上げましたが、赤身肉を長期間低温保存した「熟成肉」への関心が高まっていることもあげられます。肉本来の味を楽しめるという消費者も多く、熟成肉を扱う業者が増えています。


 このような赤身肉人気は、牛肉の取引価格にも反映されています。牛肉の格付けは、霜降りの程度などによって決められます。高級霜降り肉(A5)と、サシの少ない赤身肉(A3)の価格差は、この数年間でだいぶ縮まりました(下表)。両者の価格差は、現在では1kgあたり400円を切っています。


 日本では赤身肉の人気が高まってきていますが、米国など海外では霜降り肉を中心とする和牛肉の消費量が伸びています。日本の牛肉輸出額はまだ大きなものではありませんが、昨年(2014年)の輸出額は一昨年から41%も増えました(下表参照、日本畜産物輸出促進協議会資料より)。政府(農林水産省)は和牛肉を国際競争力のある農産物と位置付けており、5年後(2020年)の輸出目標額を現在の3倍の250億円としています。


 冒頭で紹介した毎日新聞の憂楽帳にも書かれていましたが、TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の締結により、米国産などの赤身牛肉の価格が下がり輸入量が増える一方で、和牛肉輸出の追い風になる可能性があります。肉牛生産を行っている畜産農家だけでなく、牛肉にかかわる方々には気になる状況が続きそうです。


 「神戸トリックアート不思議な領事館」では、神戸ビーフのトリックアートが大人気です。ここを訪れた多くの方は、巨大な霜降り肉に興奮して、私も含めて上のような写真を撮ります。赤身肉人気が高まっているというものの、まだまだ霜降り肉人気も健在に感じられます。

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食品のトピックス | 10:06 | 2015.09.10 Thursday |