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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ロシアの乳製品

No.204


 今回は、先月(2015/12)訪れたロシアの乳製品について紹介します。ロシアというよりは、モスクワと言った方がよいかもしれません。欧州から極東まで続く広大な国ですので、モスクワの様子がロシア全体を表しているとは思えません。


 モスクワ市内のスーパーの棚(写真上)には、整然と乳製品のパッケージが並べられています。ほとんどの製品がロシア語だけで表記されていますので、同行していただいたロシア食肉科学研究所のビクトリアさん(下写真)に説明してもらいました。


 「кефир」と書かれ製品が比較的多く、これは予想通り「ケフィール(ケフィア)」でした(下写真)。ケフィールは、ロシア・コーカサス地方を起源とする発酵乳で、日本でも「ヨーグルトきのこ」の名前でかなりのブームになったことがありました。


 ケフィールは乳酸菌と酵母の塊である「ケフィール粒」を使用して作られるため、酵母によるアルコールと炭酸ガスを含む特徴ある発酵乳です。しかし、モスクワで入手したケフィールは、ほとんどアルコール風味を感じさせず、飲むヨーグルトに近いものでした。右端の製品は、フィンランドのヴァリオ(Valio)社のケフィール製品です。「LGG」と書かれているように、Lactobacillus rhamnosus GG株(プロバイオティクス乳酸菌)を使用した機能性発酵乳です。ケフィールも、現代的な発展をしているようです。

 日本をはじめ多くの国で、 プロバイオティクス乳酸菌を利用した発酵乳が多く見られますが、 ロシアではまだそれほど多くない印象でした。 乳製品の棚を探すと、 下の写真のようなラベルの製品が見つかりましたが、 やや特殊な製品といった感がありました。


 先進国、発展途上国を問わず、多くの国のスーパーには、「ダノン」、「ネスレ」、「ヤクルト」といった国際ブランドの発酵乳が並んでいます。モスクワのスーパーには、ダノンブランドの製品(下写真)がありましたが、それ以外は上述のヴァリオ社の製品程度でした。世界で最初にヨーグルトの工業生産を始めたダノンは、さすがに強力なブランドです(こちらの記事を参照)。


 発酵乳の類で一番気になったのは、下の写真の製品です。ラベルの絵からわかるように、馬乳やラクダ乳を原料としています。乳酸菌と酵母の併用による乳酸・アルコール発酵乳である点は、ケフィールと共通しています。馬乳を原料とするものは、「кумыс(クミス)」(写真左)と呼ばれ、モンゴルのアイラグ(こちらの記事を参照)とほぼ同じものです。ラクダ乳を原料とする「шұбат(シュバト)」(写真右)はかなり独特の風味ですので、日本人の口には合わないかもしれません。


 「йогурт」(下写真左)はヨーグルトのことで、「ヨグールト」のように発音します。いくつか食べてみましたが、日本や欧米のものとの違いは感じられませんでした。また、「飲むヨーグルト」タイプの発酵乳も多く、「ряженка(リャージャンカ)」(写真右)が代表的な製品です。


 ロシアで重要な乳製品として、サワークリーム(生クリームを乳酸発酵させたもの)があげられます。ボルシチには、必ずたっぷりとサワークリーム(сметана, スメタナ)が添えられます(下写真)。


 スーパーの棚には多種類のスメタナ(下写真)が並べられており、ボルシチに限らず多くのロシア料理に使用される食材です。ロシア料理におけるスメタナは、フランス料理のバターやイタリア料理のオリーブオイルに相当するものとの記述も目にします。


 どこの国でも、主要な乳製品としてチーズ(ロシア語では、「сыр(スゥイル)」)があります。ロシアの乳製品売場で目立っていたものが、「Творог(トヴォローク)」でした(下写真左側3点)。トヴォロークはカッテージチーズですが、スメタナとともにロシア料理には欠かせない存在のようです。カッテージチーズ以外でも、クリームチーズ(下写真右から2番目)やマスカルポーネ(右端)といったフレッシュチーズの類が、スーパーの棚に多くありました。


 ロシアのチーズとして比較的有名なものに、「Чечил(チェチル)」という紐を編み込んだような形状のチーズがあります(下写真)。数年前に、このチーズをモンゴルのウランバートルで初めて見ましたが(ロシアからの輸入品)、稲わらを編んだような外観でチーズだとは思いませんでした。


 フレッシュチーズを麺のように延ばし、塩水に漬けた後に三つ編み状にしたものを燻煙して作られます。 味の方は、少々塩味が強いですが、イカやタラの燻製のような味で悪くありません。 ロシアやモンゴルを訪れた日本人が気に入って、お土産に持ち帰るということがよくあるようです。 モスクワのキエフ駅近くの食品市場で、下の写真のうどん玉にしか見えないチーズを見つけました。 チェチルの塩漬け・燻煙する前の段階の製品のようです。 モッツァレッラチーズのような食感と風味で、私は気に入りました。


 ロシアでは、上にあげたようなほとんど熟成をさせないプレーンな風味のフレッシュチーズが好まれているようです。ホテルの朝食やパーティーのオードブルに出されるチーズも、くせのないものがほとんどでした。高級デパートのチーズ売場(下写真)には、多種類の輸入チーズが並んでいましたが、チェダー、ゴーダ、エダムといったスタンダードな系統のものが多く、似たようなものばかりというのが正直な印象でした。


 珍しさという観点からは、 やや物足りない感もあるロシアの乳製品ですが、 ほとんどのものが日本人の口に合うものです。 前回の「ロシア料理は美味しい」でも紹介しましたが、 ロシア(モスクワ)を訪れる際に食事の心配をする必要はあまりないと思います。


 次回は、ロシアの食肉製品を紹介する予定です。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
226:キャビアの話(2016/12/12)
205:ロシアの食肉事情(2016/01/25)
203:ロシア料理は美味しい(2015/12/25)
193:モンゴルは馬乳の季節(2015/07/25)
182:メリーさんの羊乳(2015/02/10)
174:インドの乳・乳製品事情(2014/10/10)
161:インドネシアの発酵食品(2014/03/29)
150:モンゴルの「白い食べ物」(2013/10/10)
147:トルコの乳酸発酵飲料「アイラン」(2013/08/30)
食品のトピックス | 12:12 | 2016.01.12 Tuesday |