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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ロシアの食肉事情

No.205


 前々回の「ロシア料理は美味しい」、そして前回の「ロシアの乳製品」に続いて、今回は「ロシアの食肉事情」です。先月(2015/12)のモスクワ出張の主な目的は、ロシア食肉科学研究所の設立85周年記念シンポジウムでの講演でした(下写真)。


 ロシア食肉科学研究所のLisitsyn所長(下写真)は、1992年から今日に至るまでの長きにわたり所長を務めるロシア科学アカデミーの実力者とのことです。85周年記念誌には、当時のゴルバチョフ書記長やプーチン大統領と一緒の写真が掲載されていました。


 Lisitsyn所長によると、ロシア食肉科学研究所(下写真は研究所内部)は、千人を超える職員(うち研究者は90人)を擁する大きな組織で、食肉に関する基礎から応用に至るまでの幅広い研究が行われているとのことです。産業界への技術指導にも力を入れており、約2千の食肉工場があるロシアの巨大な食肉産業を支えている組織です。


 今回の訪問前に工場見学をしたい意向を伝え、モスクワ市内の食肉加工工場を見学させていただきました。残念ながら、ハム・ソーセージの製造現場で写真を撮ることは許されませんでした。ただ、近代的な製造プロセスは、多くの先進国の工場と大きな違いは見られませんでした。製造機械の多くがドイツ製だったので、尋ねたところ、近代的な食肉加工技術の多くはドイツから導入したとのことでした。下の写真(左)は、見学後に撮った写真です(工場と食肉科学研究所の関係者)。美味しいハム・ソーセージも、楽しみました(写真右)。


 見学した工場近くには、同列経営の高級食料品スーパーがあり、そこでは自由に写真を撮らせてもらうことができました。ロシアでは日本と同じように、牛、豚、鶏といった食肉が消費されています。もちろん牛肉は、すべて赤身のものです(下写真左)。また、ロシア料理の素材として多用される牛タンが、ごく一般的な食材のようです(写真右)。


 店頭に並べられている豚肉(下写真左)や鶏肉(写真右)は、いたって普通のものでしたが、ロシアでは鶏肉とともに七面鳥肉も多く摂取されているとのことでした。なお、ロシアは食肉生産量の多い国ですが、国内需要も大きいため、ほとんど輸出は行われていません。食肉加工品も、中東など限られた国に輸出されている程度とのことです。


 ハム・ソーセージといった食肉加工品も、割合とオーソドックスなラインナップという印象でした。工場ではドイツ製の機械が多用されていたと書きましたが、ドイツ風の製品が多いように感じられました。イタリアやスペインで見られるような迫力ある生ハムや白カビで覆われたソーセージの類は、ロシア国内ではほとんど製造されていないそうです。下の写真はハム類ですが、これらの製品はロシアの伝統的な食品と言ってよいようです。


 ソーセージ類でよく目にしたのが、サラミの範疇に入るものでした(下写真)。これらの多くは、乳酸菌スターターを利用した発酵ソーセージで、ロシアでの歴史は比較的浅いという話でした。日本で製造されているサラミは乳酸発酵を経ないものが多く、ロシアを含めた欧米の製品に比べると、かなり物足りない風味となっています。なお、ロシアのハム・ソーセージの原料には、豚肉だけでなく牛肉もよく使われるとのことでした。


 小さなスーパーや小売店の店頭では、日本のように個別包装されたハム・ソーセージが主流です(下写真左)。ちょっと高級な感じのスライスされたハム(写真右)を買ってみましたが、なかなか美味でした。


 ところで、私が海外に行ったときに必ず足を向ける場所が、食料品市場です。今回、モスクワ中心部のキエフ駅近くにある「ドルゴミーロフスキー市場」を訪れました(下写真は、市場外部の様子)。


 巨大な市場内には、食肉・食肉製品だけでなく、野菜、果物、魚介類など、様々な食料品を扱う店舗が並んでいます。食肉は内臓を含めて様々な部位を入手することができますが、やや大きな単位(重量)での購入になるようでした(下写真左)。ハム・ソーセージの類では、一般のスーパーで見られないような製品も目にしました(写真右)。


 赤の広場近くの高級デパート(グム百貨店)では、イタリアなど欧州諸国から輸入した生ハムや発酵ソーセージといった食肉加工品を手に入れることができます(下写真)。ただ、お値段はかなり高めでした。


 最近、日本でも「ジビエ」と呼ばれる野生の鳥獣を捕獲して得る狩猟肉に対する関心が高まっています。森や草原の多いロシアでは、古くからジビエが利用されていましたが、今日のモスクワのスーパーでジビエを見かけることはありません。地下鉄の駅につながる地下街で、野鳥やトナカイなどジビエの加工品を並べている店舗を見つけましたが(下写真)、一般的な食品とは言えないものだと思います。


 ロシアの食肉加工品は珍しいものが少ない反面、日本人が受け入れやすい風味のものが多いように感じられました。前々回のロシア料理や前回の乳製品でも触れましたが、ロシアの食品の多くは日本人が安心して食べられるものと言ってよいでしょう。

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食品のトピックス | 13:46 | 2016.01.25 Monday |