2016.04.11 Monday
TPPと牛乳・乳製品
No.210
2か月前に、「TPPと牛肉・豚肉」について解説しました。TPP発効による影響が大きいと予想される畜産物には、牛乳・乳製品もあります(下表)。
TPP交渉の合意内容によると、バターと脱脂粉乳は国家貿易制度を維持したうえで、生乳換算で7万トンの輸入枠(現在の輸入量:年間75万トン)が設定されます。これにより、1割程度の輸入量増加が予想されます。バターの品薄問題解消に、多少は貢献するかもしれません。
先月末の読売新聞(2016/3/21)に、「消えたバターの謎」というカラー特集がありました。国内の酪農家が毎年約4%ずつ減っていることが、バター不足の主な原因としていました。先日、『バターが買えない不都合な真実』(幻冬舎新書, 2016/3)という本が出版されました。この本によると、バター不足の背景には、もう少し違った理由もあるようです。
チーズでは、チェダーやゴーダの関税29.8%が、TPP発効後16年目に撤廃されます。プロセスチーズの関税40%は維持されますが、米国や豪州に対して低関税輸入枠が設定されます。さらに、チェダーやゴーダが原料として利用されるため、プロセスチーズ値下げの可能性があります。
これまで農業関係団体は、TPP発効が日本農業に大打撃を与えるとうったえてきました。しかし一方で、農業にとって大きなチャンスとなるという見方もあり、下にあげたような経済誌等の特集もよく目にします。
日経ビジネス誌の「TPP時代に勝てる農産物ジャパン」には、国際競争力の高い農産物となりうる国産農産物11品目があげられています。畜産物では、「松阪牛」とともに「十勝産チーズ」が入っています。北海道・十勝地方では、国産ナチュラルチーズの6割以上が生産されています。十勝チーズの評価は総じて高く、株式会社明治のように「十勝」ブランドを積極的にPRしている企業もあります。
生鮮食料品に近い飲用乳(牛乳)では、TPPの直接的な影響はほとんどありません。しかし、乳製品の輸入量が増加した場合、その影響は生乳生産にも及びます。日本国内の生乳の約半分(52%)は、北海道で生産されています(下は、生乳生産量に基づいた日本地図)。北海道産生乳は乳製品に利用される割合が高いのですが、チーズなどの輸入量が大きく増えると、飲用乳への転用が進み、本州における生乳生産に対する圧迫が懸念されます。
先日、私が担当している授業で、上に紹介した「TPP時代に勝てる農産物ジャパン」の記事を学生諸君に読んでもらいました。彼らの書いたレポート(感想)に目を通すと、国際競争力を備えた国産農産物に関心を持った諸君が多かったようでした。これからの世代の皆さんが、農産物ジャパンに新たな展開をもたらしてくれるのかもしれません。
食品のトピックス | 14:53 | 2016.04.11 Monday |