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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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機能性食品と特許 〜食品の用途発明〜

No.220


 今年4月(2016/4)、特許庁は食品特許の審査基準を変更しました。とくに、機能性食品に関わる研究者や技術者にとっては大きな意味を持つ内容です。今回の変更により、「用途発明」と呼ばれるものが、食品においても特許の対象となりました。少し難しい説明になりますが、用途発明というのは、(1)ある物の未知の属性を発見し、(2)この属性により、その物が新たな用途への使用に適する事実を見いだしたことに基づく発明です。


 「公知の食品」と「新たな機能」を結びつけた食品の用途発明は、これまで日本では特許性が認められませんでした。具体例をあげると、「成分A」の機能として新たに「骨強化」を発見しても、「成分Aを有効成分とする骨強化用ヨーグルト」という発明は、特許になりませんでした。もちろん、成分A自体が新規物質であれば、成分Aそのものが特許の対象になりました。


 私たちの研究室も、機能性食品に関わる発見をいくつか特許出願してきました。「ビフィズス菌増殖促進ペプチド」のような場合、ペプチドそのものが新規のものであればすんなりと特許として認められました。しかし、「ペプチドを利用した抗ストレス作用を有する食品」のような発明は苦労し、「製造方法」を取り入れるなどにより対応しました。


 今回、審査基準の変更が行われた背景には、昨年4月(2015/4)の「機能性表示食品」制度の発足があります。特定保健用食品や機能性表示食品は、用途発明に基づいて開発されるものが多く、特許審査における対応も自然な流れと言ってよいでしょう。研究開発を重視している食品メーカーでは、従来以上に知財戦略に力を入れようとしているところもあるようです。


 今回の審査基準の変更により、「骨強化用ヨーグルト」や「歯周病予防用ジュース」のような用途発明が、特許として認められる可能性が出てきました。これまで素晴らしい研究成果だと思っても特許とならず、地団駄を踏まれた研究者や技術者が少なからずおられたことでしょう。実は私も、もう少し早く審査基準が変更されていればと思った一人です。


 ところで、食品と言っても動物(畜産物)や植物(野菜・果物)そのものは、用途発明を主張しても特許として認められません。たとえば、加工品である「脳機能改善用バナナジュース」は可能性がありますが、未加工の「脳機能改善用バナナ」は認められません。なお、これはあくまでも既存のバナナに脳機能改善作用が見出された場合のことで、品種改良により画期的なバナナが誕生したとなれば話は別です。


 私たちが獣医学部で研究対象とする畜産食品では、「ソーセージ」はOKですが、「豚肉」はダメなようです。では、「牛乳」はどうでしょうか。牛から搾乳して得た「生乳」を加熱殺菌したものが牛乳です。牛乳の加熱処理は加工と見なされ、どうやら用途発明の対象となるようです。このあたりは、なかなか線引きが難しそうな話です。


 食品の用途発明の詳細(審査基準)については、平成28年3月に改訂された「特許・実用新案審査ハンドブック」をご覧ください。また、個々の食品特許の審査状況については、「特許情報プラットフォーム」をご活用ください。

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食品のトピックス | 12:51 | 2016.09.12 Monday |