2016.12.12 Monday
キャビアの話
No.226
先月(2016/11)、ロシア(モスクワ)に行ってきました。ロシアの代表的な食品として、キャビアをあげる方も多いようです。キャビアは、トリュフ、フォアグラと共に、「世界三大珍味」とよばれています。
キャビアほどの食品になると、『図説 世界史を変えた50の食物』(下写真)にも載っています。この本によると、シェークスピアの「ハムレット」には、「俗人にキャビア」という言い回しが出てくるそうです(「猫に小判」のような意味)。
いまさら解説するのも気がひけますが、キャビアはチョウザメ科の魚の卵を塩漬けにしたものです。とくにカスピ海のベルーガ種のものが最高級品と言われてきました。モスクワの高級百貨店「グム」内にあるキャビアバーの店名(下写真)は、このチョウザメの名にちなんでいます(下写真)。
せっかくモスクワまで来たのだから、キャビアバーで本場のキャビアをとも思いましたが、メニューのお値段を見て退散しました。高級キャビアバーに限らず、モスクワのキャビアは思いのほか高価でした。グム百貨店内のキャビア売り場(下写真)では、最も安価なものでも50グラム5,000ルーブル程度(約9,000円)です。
売り場の店員さんに勧められたのは、2本セットで13,000ルーブル(約23,000円)のものでした。とてもお土産に買えませんでしたが、幸運にも試食させてもらうことができました。塩味が薄いものと濃いものをそれぞれ数グラム程度いただきましたが、1,000円分くらいになるかもしれません。味を説明するのは難しいですが、魚卵とは思えない美味しさでした。
乱獲により絶滅寸前になったカスピ海のチョウザメは、ソ連時代の厳格な捕獲制限により絶滅を免れました。しかし、ソ連崩壊後に大規模な密漁が行われるようになり、再び絶滅の危機に瀕しています。これが天然物キャビアの値段に反映しています。これほど高価になると、当然、偽物あるいは代用品のようなものが登場してきます。日本の輸入食料品店でよく目にするものに、下の写真のようなパッケージがあります。
キャビア(Caviar)の文字が見えますが、ラベル(下写真)には「ランプフィッシュの卵」とあります。ランプフィッシュは日本ではダンゴウオとよばれるカサゴの仲間の魚です。この魚の緑色の卵を、黒っぽく着色しているそうです。1,000円前後(50グラム)とお手頃の値段ではありますが、お味は本物のキャビアとはずいぶん違います。私の率直な感想を言えば、キャビアとはまったくの別物で、「数の子」にかなり近い味と食感です。
人工キャビアとよばれるものもあります。モスクワの「40ルーブルショップ」(日本の100円ショップのような店)で手に入れたのが、下の写真の製品です。なかなか立派なパッケージで、70円ほどの値段は破格です。寒天(?)の粒に淡白な味付けがしてあるだけのような製品ですが、悪くないものだと思いました。青森県の企業が開発した「キャビアンヌ」という製品もあり、こちらは海藻由来のアルギン酸やリンゴのペクチンを主原料とし、イカ墨で着色したものです。
下の写真は、ランプフィッシュの卵(左)と人工キャビア(右)です。見た目は、人工キャビアの方が大きくて粒も揃っていてかなり立派です。
ロシアではキャビア(卵)よりも、親のチョウザメの方をスーパーなどで割合とよく目にしました。ベルーガ種などの巨大なチョウザメではありませんが、生や干物にしたものがありました。レストランで魚料理を注文したところ、チョウザメがお勧めと言われ、出てきたのが下の写真の代物です。チョウザメの顔が少しグロテスクですが、淡白な味と弾力のある食感の魚肉は美味と言えるものでした。
ここ数年の間に、ロシアの通貨「ルーブル」が急落し、現在は1ルーブル1.8円程度になっています。3年前は1ルーブル3円前後だったので、キャビアの値段ももっと高かったことでしょう。ルーブル安が続いているうちにモスクワを訪れるのもよいかもしれません。以前にも書きましたが、モスクワは魅力的な場所ですし、現在は治安もよく、食べ物も日本人の嗜好によく合います。
食品のトピックス | 11:37 | 2016.12.12 Monday |