2017.11.27 Monday
香りの機能性食品
No.249
私たちの研究室(北里大学・食品機能安全学)で取り組んでいる研究テーマのひとつに、香り成分の示す保健的機能に関するものがあります。この研究は、大畑素子先生(現在は日本大学生物資源科学部)を中心に進め、着実な成果をあげてきました。
DMHF(2,5-dimethyl-4-hydroxy-3(2H)-furanone)は、フラネオールとも呼ばれる物質です。イチゴ、パイナップル、トマト、ソバといった食品の香り成分として知られており、香料としても広く利用されています。DMHFは、メイラード反応によっても生成するため、加熱処理を経た加工食品や調理品の嗜好性にも寄与しています。
私たちの研究室では、DMHF香気が嗅覚系を介してリラックス作用をもたらすことを明らかにしました。一連の研究成果に基づき、以下の発明を特許出願しています。今後、この発明を生かした「香りの機能性食品」などが誕生することを期待しています。
DMHFは古くから知られている物質ですが、上記のような発明が特許として認められる途が開かれました。特許庁は2016年に食品特許の審査基準を変更し、新たに「用途発明」が食品特許の対象となったためです。詳しくは、以前掲載した「機能性食品と特許 〜食品の用途発明〜」(トピックスNo.220)をご覧ください。
上述のDMHFは、十分に熟成させた霜降り牛肉を加熱調理した際に生じる香りに含まれる物質でもあります。DMHFは元から牛肉中に存在する物質ではなく、加熱調理中にメイラード反応(「食品と生体におけるメイラード反応」参照)によって生成します。フラネオールの甘い香りは、ステーキや焼肉の魅力を高めています。すでに述べたように、フラネオールはリラックス作用を有するので、霜降り牛肉のステーキを前にしたときに得られる幸福感の一端は、この物質が担っているかもしれません。
香り成分の有する保健的機能は、アロマテラピー(芳香療法)の領域で古くから研究されてきました。アロマテラピーでは、主に精油(エッセンシャルオイル)や精油成分の芳香により、疾病の治療・予防やストレスの解消などが行われます。一方、食品としては、ハーブが古くから利用されており、ハーブティーなどの形で親しまれています。
いわゆる機能性食品の多くは、機能性成分を経口的に摂取し、消化管から吸収されて作用を現します。私たちの研究室では、嗅覚系を介して作用を示す「香りの機能性食品」に注目しています。食品の香りが示すストレス緩和作用などの生理的機能については、これまで少なからず報告がされています。グレープフルーツやワインなどでは、かなり詳しい成果が得られています。また、カルピス株式会社は、乳酸菌飲料の香りが自律神経に作用して不安感を和らげることを明らかにしています。近い将来、香りの機能性食品が、続々と誕生するかもしれません。
食品のトピックス | 16:17 | 2017.11.27 Monday |