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トピックス

北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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羊肉の魅力

No.263


 今回は、「羊肉」です。十和田キャンパス(北里大学獣医学部)には、たくさんの羊が飼われていることもあり、私は羊という家畜にとても親しみを持っています。


 羊は世界的に人気のある動物で、以前「羊の本」でも紹介しましたが、羊の写真集など、各国でかなりの数が出版されています。


 家畜である羊の主要な生産物として、羊肉、羊乳、羊毛があります。羊乳については、このトピックス欄でも、「メリーさんの羊乳」で取り上げたことがありました。しかし、これまで羊肉については、「モンゴルの赤い食べ物」でちょっと紹介した程度でした。


 先日、書店で羊肉を特集した雑誌(dancyu, 2018年6月号)を見つけました。この「羊好き。」という特集は、80ページを超えるもので、羊肉の魅力にかなり深く迫っています。「羊のきほん」というページには、私にとっても貴重な資料が載っています。


 羊肉は日本での消費量はさほど多くありませんが、世界的には主要な食肉と言ってよいでしょう。中国、オーストラリア、ニュージーランド、モンゴルといった国を訪れると、それを実感させられます。国別の飼育頭数を見ると、下の表のようになります(総務省統計局, 2018)。日本の羊飼育頭数はわずか1万4千頭ほどで、世界では150位前後となっています。国民一人当たりの飼育頭数は、モンゴル(10.5頭)、ニュージーランド(6.5頭)、オーストラリア(3.1頭)といったところが上位となります。


 インドが上位に入っていますが、実際にインドに行くと、市場で売られている「Sheep」と称している肉の大部分は山羊肉です。SheepとGoatの区別をあまり厳格にしない国も多いようです。インドでも、肉だけ見るとよくわかりませんが、市場では頭部がよく並べられており、明らかに山羊(Goat)です。


 日本で販売されている羊肉のほとんどは外国産で、国産羊肉は1%もありません。下表に示したように、オーストラリアとニュージーランドの羊肉が圧倒的に多く、アイスランド、フランス、ハンガリーと続いています(羊齧協会資料, 2017)。


 日本でも、羊の生産が奨励されていた時代がありました。第二次世界大戦後しばらくは、衣料不足から羊毛の増産が進められ、1957年には94万頭まで飼育頭数が増えました。当時、羊毛生産を終えた老廃羊は羊肉となりましたが、これが硬くて臭いマトンという印象を植え付けたとも言われています。その後は、羊毛・羊肉とも輸入自由化の影響を受け、羊の飼育頭数は1万頭ほど(2000年)まで減少しました。ただ、最近は微増を続けていて、1万8千頭ほど(2017年)になっています。


 羊肉について、少し解説をしておきます。「マトン」と「ラム」はご存知の方が多いと思いますが、「ホゲット」もあります。これらは、月齢によって分けられています(下表)。羊肉が苦手という方には、ラムの癖のない風味が好まれるようです。


 最近では、骨付きの細長い部位である「ラムチョップ」が広く出回っており、味もよいので、羊肉というとこれを思い浮かべる方も多いようです。よく骨に近い肉は美味しいと言われますが、そんな肉の代表格かもしれません。写真は、私の住む青森県十和田市のスーパーで購入した「ニュージーランド産ラム骨付ロースステーキ用」です。ラムチョップと呼ぶにはちょっと立派過ぎる肉ですが、見た目にも美しく美味でした。


 羊肉は、あの匂いが苦手と言う方が多いようです。かつて羊肉は、ロール状に巻かれた冷凍の羊肉(マトン)を薄く切ったものが代表的でした(下写真)。これを甘辛いタレで味付けしたジンギスカンは、独特の匂いがするものでした。


 しかし、冷凍・解凍を経たものでも、技術の進歩により現在の羊肉は数十年前のものとはかなり違っています。しばらく羊肉から遠ざかっているという方も、一度試してみる価値はあるでしょう。さらに最近よく目にする「生ラム」は、流通過程で冷凍をさせないもので、これを食べて羊肉に対する評価が一変したという方の話をよく聞きます。ちなみに今回紹介した羊肉の値段を比べると、凍結・解凍品のラム骨付ロースステーキ用が429円、凍結品のロール状マトンが196円、生ラム肉が516円です(いずれも100当たり税別)。


 私はモンゴルを訪れた際に、解体直後のラム肉をいただいたことがあります。それは、羊肉であることを、まったく感じさせない風味でした(下写真)。ただ、モンゴルでは少量の岩塩だけで味付けをするため、かなり物足りない味に感じられた料理ではありました。


 最近、スーパーなどの店頭で、羊肉の魅力をPRするパネルやPOPをよく目にします。「やわらかさ」や「おいしさ」を備えたラム肉であることが多いようです。下の写真のパネルは、ANZCO FOODSというニュージーランドの食肉企業のものです。ANZCOは2017年に伊藤ハム株式会社の完全子会社となり、日本市場に一段と注力しています。


 羊肉の魅力として忘れてならないのが、「L-カルニチン」という物質の存在です。カルニチンは、体脂肪を分解し脂肪燃焼を助けることが知られています。食肉の中でも、とくに羊肉にはカルニチンが多く含まれています。下のような表示を見かけることもよくあります。「?」を付けているのは、法令を意識してのことかもしれません。


 羊肉は牛肉や豚肉よりも宗教的な制約が少ない食肉で、イスラム圏での飼育も盛んな家畜です。海外からの要人をもてなすための宮中晩餐会でも、古くから羊肉料理が取り入れられていました。2020年の東京オリンピック開催を機に、日本での羊肉普及が進むかもしれません。ジンギスカン食普及拡大促進協議会は、2009年に4月29日を「羊肉の日」とし、羊肉のPRをしています。このような努力も、羊肉人気の拡大につながっていくことでしょう。



この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
267:オーストラリアの畜産事情(2018/08/27)
182:メリーさんの羊乳(2015/02/10)
173:インドの食肉事情(2014/09/25)
151:モンゴルの「赤い食べ物」(2013/10/25)
107:羊の本(2011/12/26)
101:山羊乳の魅力(2011/09/26)
98:馬肉の魅力(2011/08/10)
食品のトピックス | 13:23 | 2018.06.25 Monday |