2018.08.10 Friday
America's Dairyland
No.266
前回、シカゴ出張の際の話題(ベイビーバックリブ)を取り上げましたが、今回はシカゴの次に向ったウィスコンシン州の話です。ウィスコンシンは、米国中西部の最北に位置しています。
ウィスコンシン州の主要農産物は、1890年代に小麦から酪農製品に移っていきました。乳牛の飼育に適した地形・気候やヨーロッパからの移民のチーズ製造技術が、この地を米国随一の酪農地帯に発展させました。ウィスコンシン州の自動車ナンバープレートにも、「America's Dairyland」(アメリカの酪農地帯)と書かれています。
シカゴ(イリノイ州)からウィスコンシンの州都マディソンに向って車で北上すると、デントコーン畑が広がります。この辺りは、主要作物として飼料用トウモロコシが生産されているコーンベルトと呼ばれる穀倉地帯です。
ウィスコンシン州に入ると、いたるところに乳牛舎や乳牛の姿が見られます。この州で生産される牛乳の約9割がチーズ製造に利用され、全米の約4分の1のチーズが作られています。
ウィスコンシン州を訪れた機会に、チーズ関連の施設を訪れました。そのひとつが、モンローという小さな町にある「National Historic Cheesemaking Center」です。
このセンターはコンパクトな施設ですが、チーズを幅広く学べる場所です。案内していただいたFritzさん(下写真右)は、チーズメーカーの工場で長く技術者をされていた方で、チーズ全般に関して非常に詳しく、どんな質問にも的確に答えていただきました。
ウイスコンシン州でチーズ製造などの酪農産業が盛んになった背景として、ウイスコンシン大学の存在も大きいと言われています。ウィスコンシン大学は、博士号授与者数全米6位、関係者のノーベル賞受賞者数21名を誇る米国屈指の研究教育機関です。マディソン校はその中核校であり、20以上の学部・研究所等により構成されています。
酪農を含む農業に関する研究も盛んで、州立大学ということもあり、州の農業試験場的な役割も大きいとされています。ウィスコンシン大学が誇る酪農科学者として、バブコック(Babcock)博士がいます。ウィスコンシン大学マディソン校の食品科学科の建物は、博士の偉業によりバブコックホールと名付けられています(下写真)。
バブコック博士が開発した牛乳脂肪の測定法は、世界中で公定法として採用されました。下の写真(左)は、バブコックホール入口近くに置かれた手動のバブコック遠心分離機で、壁の写真にはバブコック博士の姿もあります。ガラス製の専用遠心分離管の写真(右)は、National Historic Cheesemaking Centerで撮ったものです。
バブコック法が普及する前(1890年代以前)は、出荷前の牛乳を水で薄めたり、クリーム層を除去したりするいわば食品偽装が横行していたそうです。なお、私は25年前にウィスコンシン大学に客員研究員として滞在しており、久しぶりにマディソンや大学を訪れることができました。州都マディソンは、当時と変わらず美しい街でした。
マディソン周辺にはチーズ専門点が多くあります(下写真左)。ウィスコンシン州で製造されるチーズは量が多いだけでなく、種類も非常に豊富です。専門店の店頭に並べられているチーズの種類は、スイスやフランスといった国の専門店にも劣らないと思います(右)。
ウィスコンシンには、スイスなどヨーロッパから多くのチーズ職人が移民としてやってきました。マディソン郊外の街New Glarusは、今でもスイス村として知られています。今回、私たちもここにある山小屋風のホテルに泊まりました(下写真左)。この街の名物であるチーズフォンデュを楽しみました(右)。
かつてウィスコンシンにおけるチーズ製造は、移民家族による小規模なものがほとんどでした。しかし、コストの面などから大規模な工場に対する競争力が乏しく、その数はかなり少なくなりました。仕方ないことですが、少々残念な話ではあります。
食品のトピックス | 13:35 | 2018.08.10 Friday |