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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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ハラル会議 in インドネシア

No.273


 先日、インドネシアで開催されたNational Halal Conference(2018/11/14〜15)に招かれ、スマトラ島・プカンバルに行ってきました。人口の9割近くがイスラム教徒のインドネシアですが、会場となったState Islamic University of Sultan Syarif Kasim Riau(下写真)は、学生全員がイスラム教徒です。ハラル会議にふさわしい会場でした。


 インドネシアではハラル製品に関する法律(ハラル製品保証法)が公布され、2019年10月までに施行されます。この法律により、食品や化粧品など多くの製品にハラル取得が義務付けられます。また、ハラル認証の権限は、宗教省大臣管轄のハラル製品保証実施機関に移されます。しかし、いまだに実施細則が完全に定まらないなど、ハラル製品を扱う日系企業も不安を隠せない状況です。それでも、豚を含む食品には、「MENGANDUNG BABI」(豚含有の意味)を赤文字で表示するなど、細則が決まりつつあります。


 「ハラル」や「ハラル食品」については、4年ほど前にこのトピックスで解説しました(イスラム市場とハラル食品)。ハラルは、「イスラム法で許されたもの」という意味です。食品の話として取り上げられることが多いですが、医薬品、化粧品、衣類、玩具、コンピュータソフトなど、イスラム教徒が消費あるいは利用するあらゆるものが対象となります。食品では、イスラム教徒が豚肉を忌避するということはよく知られていますが、鶏肉や牛肉もイスラム法のルールで扱わなければ、食する対象とはなりません。4年前に比べると、日本でもハラルという概念がだいぶ浸透してきたように感じられます。下に示したようなハラルマークを目にしたことがある方もずいぶん増えたようです。


 ハラル食品を目にする機会が増えた背景の一つとして、近年、インドネシアやマレーシアといったイスラム圏からの訪日者数が急増していることがあります(下図)。東京などの大都市では、ハラルレストランの数も増えました。留学生の多い大学の食堂では、ハラルメニューを提供するところも珍しくありません。2020年開催の東京オリンピックに向けて、ハラル対応はさらに充実していくことでしょう。


 現在、日本国内のイスラム教徒の居住者数は20万人程度であり、観光客を含めてもそれほど大きな市場とは言えません。しかし、イスラム教徒が2億2千万人のインドネシア、1億9千万人のパキスタン、1億6千万人のインドなど、アジアには膨大なイスラム圏市場が存在します。日本政府や食品企業は、この市場に注目しています。日本貿易振興機構(JETRO, ジェトロ)では、「HALAL EXPO JAPAN」を開催するなどし、イスラム圏市場の開拓を支援しています。


 ジェトロが後押しをしている国際競争力のある農畜産物の一つに、「和牛」があります。日本在来種の交配により作り出された品種「和牛」は、高級牛肉「WAGYU」として海外でも高い評価を得ています。ハラル認証を得た和牛肉のイスラム圏への輸出量も、順調に推移しています(下図)。


 下の写真は、クアラルンプール(マレーシア)の高級スーパーマーケットで目にした和牛肉です。日本円にして、18,000円/kgと43,000円/kgとなかなかのお値段ですが、それだけの評価を市場で得ているということでしょう。


 冒頭で紹介したインドネシアで開催されたハラル会議(National Halal Conference)に話を戻します。下の写真は、この会議の開会式で披露されたインドネシアの伝統的な踊りです。


 私はこの会議で、日本におけるハラル食品事情を話すように要請を受け、「Halal foods: industry, government and science in Japan」と題した講演をしました(下写真)。日本では、ハラル認証機関がすでに20以上設立されていますが、それに伴った混乱も見られています。日本政府はハラル(イスラム圏)市場に強い関心をもっているものの、「政教分離」の原則という高い壁が存在し、ハラル認証等の指導に踏み込むことができません。


 今回の会議では、5人の演者(下写真左)による基調講演がありました。食品にとどまらずハラル全体に関する情報が提供され、参加者にとっては有益な機会となったようです。会議途中に落雷による停電といったアクシデントもありましたが、関係者の皆さん(写真右)の尽力で成功裡に終えることができました。インドネシアにおけるハラル製品保証法の施行に向けて、一歩前進することができたかもしれません。


 本稿では、「Halal」をカタカナで「ハラル」と表記しましたが、「ハラール」と表記することも多いようです。「NPO法人 日本ハラール協会」や「一般社団法人 ハラル・ジャパン協会」のように、団体名等でも共通していません。インドネシアの方たちの発音は、「ハラール」に近い感じがしました。



この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
274:和牛とWAGYU(2018/12/10)
255:ジャカルタ周辺の食料品市場(2018/02/26)
243:ドバイの食事情(2017/08/25)
163:イスラム市場とハラル食品(2014/04/25)
162:インドネシアの食品市場(2014/04/10)
食品のトピックス | 11:19 | 2018.11.26 Monday |