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北里大学獣医学部教授・有原圭三(株式会社フード・ペプタイド代表取締役)が、食品を中心とした情報を発信します。

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和牛とWAGYU

No.274


 先日、和牛の受精卵を中国に持ち出そうとした男性を、農林水産省が刑事告発する方針を示しました(2018/12/5, 読売新聞など)。和牛肉は、海外でも人気が高まりつつあり、受精卵や精子の流出は畜産業界にとって大きな損失となることが懸念されています。和牛肉というと、下の写真のような霜降り肉を思い浮かべる方が多いと思いますが、和牛について少しだけ説明しておきます。


 和牛とは、日本在来の牛に外国種を交配してできた肉専用種で、「黒毛和種」、「褐毛和種」、「日本短角種」、「無角和種」の4品種とその交雑種を指します。ただ、霜降りの状態など商品価値の高さから、現在の和牛の主流は黒毛和種となっています。


 ところで、「国産牛」は「和牛」と似た印象のある名称で、誤解されることも多いようです。日本で生まれた和牛以外の牛や、外国種や輸入種でも日本国内で肥育された牛は、国産牛になります。


 「国産和牛」という表示も目にしますが、「和牛」との実質的な違いはありません。ただ、和牛は品種なので、「外国産和牛」も存在します。しかし、業界の自主規制と農林水産省の指導により、日本国内で外国産の和牛肉が流通することはありません。


 最近では、海外で「和牛肉」を目にしたり、実際に食したりしたことがあるという方がいます。とくにオーストラリアでは、よく「WAGYU」を目にします(下写真)。日本政府は、和牛品種を守るというために、和牛自体や、和牛の精子や卵子の輸出を規制してきました。


 しかし、過去に研究目的で米国に渡った和牛から、和牛の精子と胚が他国に流出しました。こうして、オーストラリアでは和牛と交配した品種を「WAGYU」と称し、世界各国に輸出するようになり、その量も本家の日本をはるかに上回っています。外国産和牛(WAGYU)は、本来の和牛と他の肉牛との交雑種ですが、ニュージーランド、アメリカ、カナダ、中国などでも、高級牛肉として生産されています。


 日本政府は、和牛を国際競争力のある貴重な畜産物として位置づけています。現在、「和牛統一マーク」(下図)を使用した官民一体の和牛輸出促進活動が、展開されています。このマークにより、外国産WAGYUとの識別を容易にし、海外の消費者へアピールすることが期待されています。


 最近では、このマークを海外で目にする機会も増えています。下の写真は、クアラルンプール(マレーシア)の高級スーパーマーケットで販売されていた和牛肉です。かなり高い価格設定となっていますが、日本産和牛としての評価を得ているということでしょう。


 今年5月、農林水産省は、オーストラリア政府との間で、日本産生鮮牛肉の輸出再開に合意したと発表しました(2018/5/29)。これにより、2001年以来17年間途絶えていた生鮮牛肉の輸出が可能になりました。「WAGYU」輸出大国オーストラリアに、「和牛」本家が本格的に立ち向かうことになります。

この記事に関連する記事はこちらです。ぜひお読み下さい。
296:培養肉の実用化は近い?(2019/11/25)
288:世界のWAGYU(2019/07/10)
279:前沢牛らーめん・白金豚らーめん(2019/02/25)
273:ハラル会議 in インドネシア(2018/11/26)
268:メルボルンのクイーンビクトリア・マーケット(2018/09/10)
196:霜降りか赤身か(2015/09/10)
121:食品の「国産」表示(2012/07/25)
74:口蹄疫と和牛肉(2010/08/10)
食品のトピックス | 11:25 | 2018.12.10 Monday |